2008年4月29日(火)~5月8日(木) CL:妹尾
実質、本格的な雪山を過ごしたはじめてのシーズンが終わる。
年末の八ヶ岳から甲斐駒、北岳、谷川、涸沢岳、鹿島槍、白馬、剣…、
いいことも悪いことも多くを経験して、その締めくくりに残雪期北アルプスの
縦走に挑んだ。
今回は山行としては比較的長期のものでより詳細に「報告書」らしく
総括、装備、ルートなど詳細に述べてみました。
4月29日(火) 剣沢小屋~仙人峠 快晴
5時前に起床、前日まで3日間の剣・八ツ峰の登攀を終えて松サン、盛山サンと
今日でお別れ。お二方に餞別として余った行動食をたんまりもらう。5:30に
分かれて、6時ぐらいまで幕営地で行動食での朝食。うまい。
予定では今日から2週間近くの縦走。荷物はずしりと重い。
6:15発。本日前半は雪渓で埋まる剣沢の下降。荷物は重いが
足取りは悪くない。雪も締まって快調なペース。なにか登るというより
旅が始まった感じ。真珠沢ロッジは埋まっていて見えなかった。
二股まで来るといよいよ仙人新道の登り。時間は9:00、昼過ぎには
仙人峠につけるかな…と。 甘かった…。
雪の状態は目をつぶるにしても尾根状は雪が随所で崩れていて
とても歩けない。仕方なく東斜面の雪面の繋がるラインを探しながら
トラバースと登高を繰り返す。荷物も重く、時間がたつにつれ雪はグサグサ。
せっかく登っても雪が繋がっておらず、ブッシュ帯を突破しようとするも
かなりやらしい。結局、正規のルートの隣の尾根までトラバースして
なんとか稜線へ。15:00。これからの苦労が容易に予想される~
16:00仙人池ヒュッテに幕営。当然誰もいない。
夕食は餞別のアルファ米&五目御飯の素。うまいうまい。
4月30日(水) 仙人池ヒュッテ~仙人谷ダム 快晴
4:30起床、6:00過ぎ出発。今日はひたすら谷筋を下降、昨日と違って
楽なハズ…ハズ…。
最初は予想通り締まった雪の谷筋を快調に下降。おっ、もう黒部渓谷の鉄塔が
見える。早いなァ… ちょっと待て、鉄塔が見える?そんなはずは…
地形図を見返して谷筋から尾根に移る地点を通り過ぎていたことが判明。
30分ほど上り返す。そうすると斜面に湯気が見える。仙人湯だ!
温泉か~もう5日風呂にはいってないし。でも時間が…
そうだ!発想の逆転だ。これは渡渉なのだ、ここを渉らないと次へは進めない!
意気揚々と湯気に向かって進み、タオルまで取り出し、いざ温泉へ渡渉を…
湯船ないじゃん・・・・
悔しいので流れ出るお湯で頭のみ洗う。くそう。
ここから尾根上の雲切新道を下るが相変わらず雪が切れていちいちラインを
探すのに時間がかかる。雪も時間がたつにつれグサグサになり、クライムダウンを
繰り返す。最後の急な下り坂は雪も悪く、露出した地面も雪解け水でぬかるみ
すべる要素満載。しかも標高が低いのでブッシュ・樹林帯のなか随所で残雪が
一般道を隠しており、ルートファインディングに多大な時間がかかる。
赤布を見つけるたびにホッと安堵し、ようやく17:00過ぎ仙人谷ダムへ到着。
くだりでこんなに疲れるとは。夕食は今日も剣の餞別・うどんでうまうま。
5月1日(木) 仙人谷ダム~欅平 晴
本日は檜平まで渓谷をずっと歩くので、おそらく途中に適当な幕営地はない。
2:30起床、4:00過ぎ出発。ダムの登山者用トンネルの入口がわからず
ダム脱出に手間取る。渓谷を歩き出して、道はわかりやすいものの
谷やルンゼ、はては日陰には必ず残雪が残っており、傾斜の強い雪渓のトラバースも
頻繁に出てくる。いちいちアイゼンを着脱したりで時間がかかる。
後半になると残雪は若干減るが水平歩道は切り立った崖にあって、なかなかに緊張。
ここは旧歩荷道らしく、今まさに10日分以上の食料・登山装備を背負う自分にとっては
先人の苦労をそのまま味わっている感じ。感服です。
ようやく欅平に19:30着。1日10時間に行動時間を抑えたかったが今日は仕方なし。
5月2日(金) 欅平~南越峠 晴
4:00起床、若干疲れが残るが今日の前半は車道歩きのはずだし、天気もいいので
いつも通り6:00過ぎ出発。7:00欅平駅にて大内サンへ途中報告。久しぶりに
街(?)に降りてきた感じ。自販機が眩しすぎるがガマンガマン。
この3日間で残雪期のペースを実感。今日もおそらく一筋縄ではいかないだろう。
まあその予感当たっちゃうんですが。
登山口までの車道はまだ除雪が追いついていない。それだけならまだしも
登山口まであと少しの最後のトンネル。なんと入り口が完全埋没!
藪漕ぎで尾根を迂回して出口までいくか?でも地形図だと途中に崖があり
どうなってるかわからないし…。
よし、一般道やめた。トンネルを埋めている雪渓を直登して尾根上に出て
正規ルートに合流しよう。同じ藪漕ぎでもこっちのほうが面白いだろうと。
雪渓の直登はスムーズにいき、傾斜がゆるい場所からいざ藪漕ぎ。
尾根上を漕いで漕いで漕ぎまくる。こんなマニアックなとこ登ってる俺は
変わってんな~、とすすんでるとなんと手袋発見、さらに進むと作業用の(?)
ロープが樹木に結ばれている。他にもいるんですな、マニアックなヒト。
14:00過ぎ、ブッシュ帯を過ぎてようやく歩きやすい雪面に覆われた尾根に
到達。赤布も発見し、15:00幕営。今日もなかなかに手ごわく結構結構~。
5月3日(土) 南越峠~大黒銅山跡上方 快晴
今日は歩きやすい雪面の続く尾根そうなので早めに出発。
1:30起床、3:00出発。しかし最初の峠のコルへのくだりでヘッデンの灯りは
あるが、視界がブッシュだらけで進行方向に確信がもてない。磁石や地形図をみても
やはり不安なので仕方なく引き返し、風があるのでテントだけ張りなおして夜明けを待つ。
5:00、再出発。やはりさっきの方向で正解だった。
雪も締まり、ドンドンペースが上がる。5日目にして初めて予定通りのペースで
進めている。11:30餓鬼山頂上。快晴のもと、唐松・五竜、反対方向には剣が臨める。
ここから暫く下りだが、快晴も手伝って、雪はグサグサ。アイゼンはダンゴが
くっつくくっつく。2~3歩歩くたびにピッケルでアイゼンをコツン。歩きづれ~
唐松まであと登り2時間の場所で15:00幕営。いよいよ明日からメジャーな縦走路に入る。
早めに幕営地に到着したのでテントに濡れた靴下・手袋・タオルなどはっつけて干す。
ガスコンロなんかよりはるかに乾く。お天道様様ですな。
5月4日(日) 大黒銅山跡上方~キレット小屋 快晴
3:00起床、5:00出発。唐松まで登り一辺倒だが雪も締まり悪くない。
が、途中から風が強くなり、頂上直下は猛烈な烈風。耐風姿勢もつらい。
ようやく7:00、唐松頂上山荘に到着。
只今GW真っ只中。登山者が多い多い。昨日までの静寂なルートとは対照的。
そして何よりトレースのあるありがたさ。ありがたやありがたや。
五竜岳には11:30登頂。本日も快晴。剣・八ツ峰もよく見える。
あそこからきたんだなあ、と。
ここから鹿島槍まで岩稜帯のキレット通過となる。ここからまたとたんに
ヒトがいなくなった。気温の高さも手伝い、雪や氷の状態は相変わらずわるい。
そのくせ傾斜の強い場所にも残っていて、一般道とはいえいやらしさ満天。
特に岩稜の下りは緊張する。
暫く進むとこのキレットの稜線を終了点とするバリエーションルートを登ってきた
数パーティーとすれ違う。そのうち一組と話を交わす。
(以下、パ:相手パーティー。妹:自分)
パ:「どこからきたの?)
妹:「出発は剣です。」
パ:「すごいね、ところでどっかで見たことある顔だね?」
妹:「いや、ただのフリーターな暇人です。」
パ:「なんだ、有名人じゃないのか…」
ご期待に添えられず、申し訳ありません~~~。
そんなこんなで悪い雪の中、15:00口の沢のコルまで到達。
当初は地形図見てここなら幕営できるかも、と思っていたが
予想以上に急峻な場所で仕方なくもう2時間ほど残業してキレット小屋へ。
17:00キレット小屋着。以外にも(?)2パーティーの先客。
(テントの文字から片方はならしの山の会サンと判明、翌日いろいろお世話に…)
ラジオだと明日は午後から天気が崩れる模様。天候状況によって何パターンか
幕営地を決めて早めに就寝。
5月5日(月) キレット小屋~種池山荘 曇後雨(深夜雪)
2:00起床、天候が崩れる前に最悪鹿島槍まで到達したい。4:00出発。
ならしの山の会も出発準備をしている。一足早く出発。
進むにつれて、特に稜線東面はほとんど雪に埋没しており
時にラインを見極めるのに悩む。しかも曇のせいで冷え込みが甘く、
雪の状態もヤラシイ。
30分ほど進んだところで東面に伸びたルートが完全に雪面の下に消え、
その先は大きなコルに向かって切り立っている。行けるところまで行くと、
最近のものか、懸垂支点(ハーケン3~4本、シュリンゲ数本)が残置。
そこからしっかりした懸垂支点とは対照的に細引き(6~7mm?)がフィックスされていて、
最下部は見えない。この細引きで懸垂、あるいはクライムダウンはヤバ過ぎる。
迷わずロープを出して懸垂下降。準備中にならしの山の会4人が追いついてきた。
先に下りると、グローブを上に忘れている!やむなくならしの山の会の御厚意に甘え、
ロープを使ってもらう代わりにグローブを届けてもらう。
4人を先に見送り、ロープを片付け進むとすぐその先でかなりヤらしい雪壁をスタカットで
登攀していた。最初は4人登った後のスタンスならロープは不要かなと考えていたが
(それでダメそうならZ式で確保して進むつもりだった)、リーダー格らしき人に
ならしののロープを勧められ、折角なのでありがたく使わせていただく。
ならしの山の会の方々にはこの場をお借りして御礼申し上げたい。
ロープのお礼に先に進ませていただき、鹿島槍稜線まで先行してラッセルする。
7:00稜線着。ここからは再びにぎやかな縦走路だ。天候は微妙だが、赤岩尾根なら
GW最終日の今日中に降りられる。夏道の出ている縦走路を急ぐ。
爺ヶ岳11:30着。雲行きが怪しく、とうとうポツリときた。
雲もわいてきているし、状況しだいで種池山荘に幕営かなと先を急いでいると
とうとう本降り。しかも雪でなく雨。体は合羽だが、ザックはむき出しだ。
登山者の大半が爺ヶ岳南尾根を下降する中、一路種池山荘へ。
12:00着。視界も悪く、連日の疲労も考慮して文句なく今日はここで停滞。
ラジオからは明日の天気の回復と楽しげな音楽が流れていた。
夜22時頃、隣のテントは強風でなにかトラブルがあったらしい。
小屋のスタッフまでなにか手伝っていた。
5月6日(火) 種池山荘~赤沢岳 晴
6:00起床、縦走もいよいよ後半戦、今日はゆっくり出発するが、やけに左足踵がうずく。
8:00出発。昨日夕方の雨は猛烈な風を伴ってバリバリに凍りつき、
テントの撤収は大変だった。晴れ、しかし強風。
強風と冷え込みで久しぶりに"冬"の朝を歩く。雪はクラストし、
歩きやすいはずだが、なぜかペースが上がらない。午前中はガマンできたが
午後になり左足踵の痛みが激しさを増す。どうやら靴擦れかマメらしい。
痛いのはガマンできるが、問題なのは微妙な立ちこみやバランスを崩したときに
とっさに強く踏ん張れないことだ。鳴沢岳付近では真剣に進退を考えざる得なくなっていた。
昨日のラジオでは今週末までもう一回天候が崩れる。さらにこの足の状態では
ただでさえ、残雪で日程が遅れているこの山行で残りの日程は危険だ。
撤退を決めた。
「クソ!」 体力になんら問題ない。日程はそこまで余裕ではないが無理というほどでもないし、
食料・燃料も問題ない。ただ、左足の踵の怪我。それでも敗退という事実が今の実力を
如実に示しているのだろう。穂高までとはいかなくても後3~4日で槍までは到達できる
見込みだっただけに悔しい。
コースタイム1時間程度の道のりを3時間かけて何とか15:00赤沢岳頂上へ。
頂上直下にちょうどいい幕営地があったのでそこで幕営。
行動食も食料も腐るほどある。もう残りの量を気にする必要もなくヤケ食い。
しかし心は晴れない。
5月7日(水) 赤沢岳(停滞) 晴
今日は停滞日。進むために休むのではなく、無事帰るために停滞する。
天気はいい。西には剣岳、立山が。その眼下には黒部湖、北を向けば
今日まで歩いてきた後立山連峰が佇む。
11:00起床、遅い朝飯を食べて、濡れた靴下などテントで干しつつ、
ラジオを聴きながら昼寝、気が向けばお茶を沸かして余った行動食を茶菓子に
北アルプスを眺めながらのんびりティータイム。そしてまた昼寝。
悔しさはいまだ晴れない。でもこうしていると今日までの8日間、剣を含めて11日間の
北アルプスの締めくくりにこんな休日も悪くないと感じた。
もしかしたら岳人にとって最高の休日なのかもしれない。
フリーターだからこその贅沢だろう。
次はどこにいこうか。岩?沢?べつに次の場所を日本に限定しなくてもいい。
カナダ?中国?中央アジア?南米?
今までのヤマ、これからのヤマ、考えるとそれだけで静かな楽しさがこみあげる。
考えてみればいままでヤマは登る場所であって、こんなに穏やかな時間はなかった。
冬山一年目でこんな時間を過ごせるのは本当に幸せだなと。
盛山サンがくれた練乳と持ってきた紅茶で剣に向かって乾杯。
潔く(?)敗退を決めた自分とこれから強くなる自分と、雄大な北アルプスに。
5月8日(木) 赤沢岳~扇沢 晴
剣入山から13日目。ちと早いがとうとう最終日。
風がかなり強く、1日休養しただけの左足にはややつらい。
4:00起床、6:00出発。
踵に負担がかかるのは主に登り。針ノ木岳までの辛抱だ。
標高が高くなるほど猛烈な西風を全身に受けつつ、なんとか9:00針ノ木岳登頂。
針ノ木峠9:30.そこから扇沢の下りは前半は状態の良い雪に甘えて尻セード。
快調に飛ばす。後半も締まった雪で谷沿いにまっすぐ扇沢へ。
11:30、扇沢到着。2週間前はまさかもう一度訪れるとは微塵にも思わなかった。
多鶴サンの言いつけを守り、途中温泉で2週間分の汚れを落とす。
湯舟にはいると、弱った足の皮やマメどもが悲鳴を上げておるワイ、フフフ。
まァつまり私めが悲鳴を上げております。イテテ。
信濃大町から電車で松本、松本から高速バスで日野停留所。
停留所から徒歩10分の多摩モノレールまでの道のりが長い長い。
帰宅後、土産を持って大内サン宅へ。次の日は休む暇なく所沢へバイトでした。
~【総括】~
足のマメという情けない理由で敗退となったが、10日間の縦走は
残雪の悪さ、藪漕ぎ、濡れ、稜線歩き、岩稜帯と非常にバリエーション豊富で
当初の予想よりもはるかに充実したものであった。雪山での基本的な生活、
ロープ・アイゼン他ギヤ使用の判断機会も案外あり、完全とはお世辞にもいえないが
良い経験をつめてと思う。
怪我にも関係あるが、体力的には問題なくてもやはり4~5日に1日は休養日をはさみ、
怪我などの防止に努めたい。
(単独なのでパーティーでの場合にどれだけ応用できるかは別問題だが)
次の冬シーズンまでにもっともっと強くなってここに帰ってきたい。
~【装備】~
[ギヤ(一般装備は割愛)]
ロープ45m、デッドマン、スノーバー、シュリンゲ6本、ナッツ数個、エイト環、ハーケン
→そのほか、長期山行を想定してあればよかった装備として
・テーピング(ケガの応急措置)、ザックカバー(この時期は雨対策も必要か)、
携帯の交換用電池(今回買い忘れていた)、靴下(予備2足欲しかった)
[食料・燃料]
通常食12日分+予備日3日分(マルタイラーメン30食)、紅茶2袋、角砂糖1袋
行動食14日分(クラッカー 8個×11袋、板チョコ5個、柿の種180g×8袋)
*剣・八ツ峰の残り食料(ラーメン、パン、うどん等2日分)も今回は使用。
燃料はカートリッジ5缶(新品4、古1個)
→クラッカーは1日6個程度。もう少しほしいが重量的にはギリギリか。
燃料は靴下の乾燥に使用しても3日に1缶あれば十分だった。