2015年3月21日(祝) 日帰り
メンバー:マスダ(記)
一年越し。偵察2回、挑戦3回の末、やっとこさ冬の谷川岳バリエーションルートを登ることが出来ました。
行程 3:30土合口駐車場 ~ 4:30一ノ倉沢出合 ~ 6:30シンセンのコル ~ 9:00オキの耳山頂 ~ 11:00駐車場
前夜に土合口ロープウェイ駅に到着し、僅かばかりの仮眠をとって出発。
駐車場の外は、満天の星空で一瞬たじろぐ。
これまで訪れた冬の谷川岳は、いずれも空に雲があった。
それが通常だと刷り込まれてしまったので、こんなに天気が良いと逆にコワイ。この好天もきっとウソだ。騙されてはいけない。
寒さは全くと言って良い程感じない。ここ一週間は非常に暖かい周期だった。
先週入山するべきだった・・・。天気予報でダメだと決めつけて、○モシカのセールに出かけてしまった事が悔やまれる。
実際は非常に天気が良かったらしく、コンディション的ベストは先週だった。タラレバタラレバ・・・。
今回も数日前まで悪天候が予想されていたが、その日の天候が行ってみないと分からないのも谷川岳の難しさ。
暗闇の中、一ノ倉沢へ向けて雪解けの進む旧道を歩く。トレースが付いているので、何も考えずに歩く事が出来る。
一ノ倉沢へ到着すると、既に谷の奥でヘッドランプの灯りが幾つかチラついている。 マスダの前を歩いていた先行パーティは幽ノ沢へ向かっていった。
出合いでハーネスとアイゼンを用意していると、一パーティが出合いに下りて来てマスダの後からやって来たパーティと何やら話をしている。
知り合い同士らしく、「三スラは流れていてダメだ・・・」「ノコ沢にでも行こうか・・・」と何とかオッカナイ話をしているので、関わりあってはならないと準備を急いで一ノ沢へ向かう。
一ノ倉沢から一ノ沢へ入る辺りは、かなりのデブリが堆積している。 先々週来た時から幾多の雪崩が起きたようで、一ノ倉沢本来の姿を前にサッと緊張感が走った。
夜明け前でデブリもシッカリ固まってくれているから良いが、長く滞在したくないエリアなので極力休憩は少なめにして沢を進む。
アイスクライミングルートの左方ルンゼは氷も貧しく、取り付きが荒れていて今シーズンは営業終了といった様子。
デブリの少なくなる沢の上部は風と雪が斜面を流れて行くためか、磨かれてツルツル・カチカチのスベリ台になっていた。
斜度もそこそこあるので、堪らずダブルストックからピッケル・アックスの二刀流に切り替え、カマキリになってシンセンのコルを目指す。
朝日を浴びて輝やく一・二ノ沢中間稜を横目に、なんとか陽が当たる前に平らな鞍部へ到着。
一息つきながら、眼下の一ノ沢とマチガ沢、目と鼻の先に見える第二岩峰を眺める。
引き返すならシンセンのコルが最後のポイントと思っていたが、恐怖の滑走路を下って雪崩の巣に戻るのは考えたくない。 退路は絶たれた。
東尾根の核心部である第二岩峰。日当たりが良いので岩峰周辺は大分雪が無くなっている。 コルから岩峰の基部へは稜線へ乗り上がるのだが、雪が無さ過ぎる為に短い岩登りとなる。
稜線に上がる右手の潅木帯が何となく嫌な気がしたので、直登気味に岩壁に取り付いたが、登ってみると見た目より難しい。
2~3m登った所で次の一手が出なくなってしまう。 仕方ない。右手のモサモサした潅木のルートを進んだほうが良さそうなのでクライムダウンして仕切り直す事に。
ア、アレ・・・?!これ、クライムダウン出来るかしら??
下りるにはやや角度がありすぎるし、登った時に足がかりにしたスタンスも小さい。
アワワワ・・・。
ここは無理してクライムダウンせずに懸垂下降をする事にした。
岩壁から生えた枯れ枝のような細木は支点として使えないので、一本800円也のハーケン2、3本を打ってしまおう。年度末大決算サービスだ。
・・・が、ソコは流石の谷川岳の岩質。 コチコチとハーケンを岩の隙間に打ち込んでいくと、リズムに合わせてに岩の一角が浮き上がってきた。
アワワワワワワワワ・・・。
僅かな高さとは言え、こんなボロ壁の心許無い支点で懸垂をして失敗でもしたら、一ノ沢かマチガ沢のどちらかに転がり落ちて、出合い辺りに雪ダルマスダの一丁上がりだ。
アワワワワワワワワワワワw∋◎♯※☆・・・。
一かバチか突っ込むしかないのか。いや、博打は良くない。
ではこのまま岩に張り付いて、後続パーティが来てくれるのを待って助けてもらうか?
他人の助けを期待するくらいなら単独で山に登るな、バカ、ボンクラ、死ンジマエ!
・・・いや、洒落になっていないので死ねとかは良くない、口内炎3ツ4ツ出来テ苦シメ!!くらいが適当じゃないか?
頭の中でグルグルと様々な考えが交錯する中、狭い足場で10分位留まっていただろうか。
ビーコンも心配してピコピコ言っている。(マスダの機種は同じ場所に長時間止まっていると、生き埋めを考慮して発信音が鳴る思いやり設計。)
あ、そうだ。
ちょうど去年の谷川岳の訓練山行で、B先輩から聞いた方法が使えるのではないか・・・と思い出した。
使う使わないは自己責任なので明記は避けるが、今の状況の打開策としても最適と思われた。
ビレイしてくれる相棒がいない単独行で“イケるかもしれない”方法で登る事は言語道断。“これならばイケる”方法を選ばなくては、残機がいくらあってもキリがない。(?)
・・・かくして、予想外の難所を突破して核心の第二岩峰へ。 岩峰の左手にある雪の残る凹角がルートとしては良さそうだが、所々溶けてしまっているので草付きの土にアックスを打ち込んで突破する。
第二岩峰を乗り上がると、その先はしばらく安心感のある雪稜が続く。 見事に晴れ渡ったカンカン照りの雪面は、既に緩み始めている。
高気温で締まりを失ったルート上は所々でクレバスが口を開けており、登攀ラインが分断されているので迂回を余儀なくされる場面も。
トラバースをするにしても、グズついた雪に突き刺すピッケルやアイゼンの刃が効いている感じは無いので迅速かつ慎重にやっつけて本線へ復帰する。
グズグズ雪質の為、一番緊張を強いられた第一岩峰手前の極細稜線。 残されたトレースに従って稜線のド真ん中をソロリソロリ・・・と綱渡り状態で通過する。
振り返って良く見ると、今渡った吊り橋は雪庇が右から左に向きを変えて堆積した実にアーティスティックな造形。崩れてくれなくて本当にアリガトウ。
聳え立つ第一岩峰にはスリングが垂れており直登も可能なようだが、アッシには関係ないでござんす。
岩峰基部を右手からグルリと回り込んで頂上直下の最後の斜面へ。
背中をジリジリと陽光に焼かれ、汗を掻きながら頭上の巨大な雪庇が崩れてこないように祈りながら駆け上がる。
“真のアルパインクライマーならば、他人の付けたトレースに頼ることなく自らのルートを拓くべき”
・・・とかチラリと思ったりもしたが、ソレどころではなかった。
頂上付近の雪もご多分に漏れずグズついてきており、先行者が踏んで硬くなったトレースを使わないと身体を押し上げる事が出来ない程だったので、 真のアルパインクライマーはまた今度という事にしておいた。
急ぐつもりはなかったが、アヤシイ雪質の為に焦ったり、急かされたりで結構なハイペースで頂上に到着。
突き抜けるような青空が広がる山頂では360度の絶景が出迎えてくれる他、マスダ以外誰もいない。
文句のつけようの無い素晴らしいシチュエーション。足りないのはパートナーくらいのもの。
そう、今のマスダに必要なのはこの登頂を称えて合う相手だった・・・。
マスダ(ウラ声で)「オメデトウゴザイマス!」
マスダ(低めの声で)「いやぁ、ありがとうございます。」
マスダ「・・・・・・」
「・・・・・・」
下山する事にした。
トマの耳を越えて肩の小屋まで来ると、ロープウェイの始発が動き出したらしく、天神尾根からスキー板を背負った多くの登山者が上がって来た。
天気も良いので西黒尾根からも続々と登山者が上がってくる。この腐った雪の急斜面を登ってくるのは大変な労力である。
西黒尾根を下って登山指導センターまで辿り着き、無事に山行終了。(家に帰るまでが山行ですよ!)←URUSEEEE
ポカポカ陽気で指導センター周辺の雪解けも大分進み、この辺りは冬山という感じがまるでしなかった。
天気が悪くても勿論ダメ。天気が良くても雪の状態が悪ければダメ。
一筋縄で行かない谷川岳に翻弄され続けながらも、メゲずにアタックを続ける姿は正に“高嶺の美女に惚れてしまった醜い獣”なのです。
モチロン知ってますよ、嫌われてるのは・・・。それでも、しつこく付きまとうのです。
人間ならば、ストーカー行為で通報されてしまいますが、相手が山で助かりました。
散々マスダに辛いムチをくれてきた谷川岳が遂に甘~いアメを与えてくれたワケですが、これに味を占めてしまうと次は輪をかけて辛い辛~い仕打ちがやって来るのでは・・・と考えてしまい、、、、、ヨダレが出ます。(患)