2013年1月14日(月)~2月6日(木) 24日間
メンバー:妹尾
それでは後編をドウゾ。
27日(日) 9:30 C1~14:00 C2
本日は2回目、そして日程的にも恐らく最後の
アタックチャンスとなる出発。本来なら7:00ぐらいには出発し、
午後は氷河の試登を考えていたが、コルの向こうから西向きに
雲が出てきていたので、出発を遅らせた。
過去の報告にもあるように、基本的に西風は悪天の兆し。
ほんの少しの雲で、確実に西風とは判断できないが、アタックを前に
神経質になっているようだ。他のパーティーも出発の是非を
相談している模様。
だが、今日はC2まで上がればよいだけで、そこまでなら時間もかからず
最悪、悪天になってもすぐにC1へ引き返せるので、出発を決定。
登っている間もドンドン雲が出てきていたが、コルあたりで
少し天候回復の感じ。ヤマが揺さぶりを掛けてきているのだろうか?
無事C2まで到着する・・・がやはり夕方から天候悪化。
氷河試登は勿論中止。早めに夕食を取る。
天候しだいでは深夜からいよいよサミットプッシュの可能性も
まだ捨てていなかったが、吹雪・強風は夜になっても
収まらずに断念。待つ、信じて待つ。
28日(月) 終日C2
明け方には天候回復。しかし、強風は相変わらず。
本日深夜に出発の予定で、それまで時間はあるので
今日こそ氷河の試登を・・・とは考えずしっかり休む。
何度も下から見上げ、ラインもほぼ決定、後やるべきことは
ただ休むこと。明日の長時間行動に備え、栄養・水分をたっぷり
とってひたすら寝た。
29日(火) 4:00 C2~14:00氷河終了点(稜線)~18:00頂上
~21:00 6150m地点
0:00頃に起床するが、相変わらず強風。朝食を取って待機していると
3:00頃に風が弱まり4:00出発。月明かりで氷河全体も良く見える。
偵察・検討では所要時間3時間前後と見ていた下部雪壁は
表面のクラスト下はスカスカ雪でラッセルに思った以上の時間がかかり
5時間も費やした。10時過ぎからようやく氷のセクションに入る。
傾斜は45~55度くらいで、これが3~400mほど続く。
核心は岩壁とクレバスに挟まれた部分で、体感傾斜60度くらい
あったかもしれない。きれいな氷壁というよりはウロコ状に
凹凸もあり、せいぜい3級あるかないか。
堕ちることはないが、それでも10kgぐらいの荷物を背負い、
そしてなにより6500mという標高で行うフリーソロ。
慎重にアックス・アイゼンを決めていく。呼吸は苦しく
スピードはなかなか上がらないが、ほどよく緊張し
同時にリラックスできていて、登攀へ完全に集中できていた。
核心を抜けてもあと2P分(80mぐらい?)氷壁が残っていたが、
残り時間・体力などを考えて、早めに稜線へ抜けるため
左へトラバースする。だが、このトラバースも悪く、
恐ろしげなクレバスの下を通ったり、不安定な雪を処理したりと
これまた時間がかかる。だが、ここもしっかり集中して
丁寧に進み、とうとう稜線に抜けた。
いつもの天候パターンでは、必ず夕方から雲が出て
天候が悪化するはずなのだが、今日に限って
快晴のまま。アコンカグアが祝福・・・なんて考えは
顔に似合わないので(苦笑)、感謝しつつもホッと一息。
風も穏やかで、もう墜落の心配はないという安心感で、
一気に緊張から開放されたので、眠気が襲ってきた。
ツエルトを被り少し眠ってしまった。
1時間ほど仮眠後、出発。
当初の計画では、恐らくの夕方の天候悪化に備え
稜線付近のクレバスでビバークする予定だったが、
予想外の晴天なので、時間も少し遅いが頂上を目指す。
2時間以上、穏やかな稜線を歩くが、やはり7000mに近づき
呼吸が苦しくなかなか足が進まない。それでも歩き続ければ
いつかは辿り着くとひたすら耐え、18:00やっと登頂。
この地域は緯度が高く21時くらいまで明るく助かる。
時間が時間なだけに、誰一人いない静かな頂上。
誰に労われるわけでもなく、この登頂を知るのは自分のみ。
でもそれでいいと思う。冒険は本来、究極の自己満足で
あるべきだろう。モチベーションは常に自分の内側からのみ
生み出されるべきなのだから。
この時間になってようやく雲が出てきたので、
写真を撮って、下山を急ぐ。下山はノーマルルートを使用する。
ノーマルとはいえ、初めて歩くルートで疲労もあり、慎重に下る。
しばらくノーマルルートを下ると、ポーランド氷河側(アコンカグア東面)へ
トラバースする。この頃には疲労で5分歩いては近くの岩に腰を下ろして
休み休み歩く始末。20時くらいからヘッデンを出す頃、暗闇の向こうに
見慣れたアメヒーノ山とコルが見えた。
あそこまで行けば後は迷うことなくC1まで戻れる、と思った瞬間に
油断してしまう。
気がつくと先ほどまで歩いていた登山道が消えて広大な斜面をラッセルしていた。
どうも正規のルートから外れたが、残念ながら登り返す気力もなく、
かといって深いラッセルを続ける体力も残っていないので
残念ながら今日中の下山を諦め、ビバークを決定。
雪の斜面を削り、なんとか足を曲げれば横になれるスペースを確保。
テントはポールを立てず(立てられず)、被ったまま眠る。
疲れから、水を一口飲んだだけで眠ってしまった。
疲れた、とにかく疲れた。でも・・・登った、登れた。
その事実だけで不快なビバークでも幸せに眠れた。
1/30(水) 11:30 6150m地点~15:00 C1
朝、快晴の中目覚めるが、シュラフはビショビショ、空腹で
目覚めはあまりよくないが、いつまでもここに居ても仕方ない。
最後の気力を振り絞り、水・朝食を作って出発。
最初は昨日の続きの深いラッセルだが、徐々に雪も安定してきて、
斜面の終わりぐらいになると、普通に歩けるようになった。
しかし、昨日見た感じでは斜面を降りれば、コルにはすぐ着くと
考えていたが、やはり大陸の山は距離感が狂う。
近いと感じた場所が実はやたら遠い。しばらく歩くと
正規のルートに合流するが、結局コルに到着したのは14:00。
その後、歩きなれた道を通りようやくC1に戻ってこれた。
しかし、せっかく戻ってきたC1の様子がおかしい。
ポールがたたまれ、岩が上においてある。
よく見ると、ポールが折れていた(泣)。
どうやら、強風でポールが折れて、おそらく近くの誰かが
テントが飛ばされないよう岩を置いてくれたようだ、ありがたい。
(アメリカ人女性2人組パーティーかな?)
がんばって登頂し、ヘロヘロで下山してきたのに、
『それでも休んだらダメ』的な雰囲気に苦笑いしながら
1時間ほどかけて修理し、ようやくテントの中に入れた。
テントは暖かい(若干暑い?)。両手・両足とも
軽い凍傷で感覚が鈍い、唇・鼻周辺は乾燥で金属みたいに
ガサガサ、顔も髪もひどい状態だが、ようやく
緊張から開放され、充足感の中で昼寝ができた。
1/31(木) 8:20 C1~10:30/10:50 BC~15:50Casa de Piedra
ようやく登山活動が終わったと思ったら、早速本日から下山開始。
別に急いでいるわけではなく、計画当初からこの日より下山キャラバンを
開始しなければならなかった。つまり、日程的にもギリギリで登頂できた
ワケなのです。
疲労はまだガンガンに残っているが、多少軽くなった30kgぐらいの
荷物でもやはりキツイ。下りなのが少し救い。
BCで許可証に下山チェックを受ける。医師パウロにお礼でも
言おうと思ったが、既に下山とのこと。登山口で貰った
オレンジ色のゴミ袋を指示されたドラム缶に捨て、仕方なく出発。
標高が下がるにつれて暖かくなるが、同時に体のあちこちで
ガタが来ていることにも気づく。今日明日となんとかもってくれと思いつつ、
よく耐えてくれたなと感謝。
夕方にカサ・ド・ピエドラ到着。ツアー団体が居て、行きとは違い賑わっていた。
2/1(金) 7:30Casa de Piedra~19:30Punta de Vacas
本日は残りの日程上、行きは2日間かけて歩いた行程を1日で
歩かないといけない。ただ疲労はあまり抜けていないので早朝出発はできず
ゆっくりスタート。出発直後、行きは曇りで見えなかったアコンカグアが
顔をのぞかせる。アリガトウ、ソシテ、サヨウナラ。
ラ・レーニャまでは快調に飛ばす。しかし、そこからは一気に疲労が
出てきてなかなか進まない。本日は30人ぐらいの登山者とすれ違う。
2月に入ると入山料が安くなるからだろうか。
夕方、12時間かけてようやくプンタ・デ・バカスに到着。
しかしここでトラブル発生。行きにはここ(レンジャー小屋)でゴミ袋を
2つ(オレンジと白)を貰い、オレンジはBCでチェック後捨てても良いが、
白の方はここまで持っていないと罰金となる。その白は今回あまり使わず
気にしていなかったが、なかなかザックの中から見つからない。
レンジャーのニーチャンは親切で、最悪の場合なんとか上司と
相談してみると電話してくれた。いよいよ諦めかけて罰金か・・・という瞬間、
ふと思い出して天蓋の一番奥にしまったのを思い出し、果たして無事発見。
レンジャーにいちゃん、マジすんませんでした(苦笑)。
今日はレンジャー小屋の裏にテント。
今日で長かったテント生活も最後。車道はすぐ傍だが、特にお店もなく
夕食はやっぱり不味いマカロニ・・・。明日こそは旨い夕食を~。
2/2(土) 12:30Punta de Vacas~16:30Mendoza
昨日、レンジャーにいちゃんに、メンドーサまでのバスの止まる場所を
確認していたので、朝8:00前からそこに行きひたすら待つ。
ここら辺のバスはバス停がないので手を挙げて停まらせるようなのだが、
来るバス来るバスまったくのスルー。女の子に告白して『ゴメンナサイ』と
言われる気分(遠い目・・・笑)。日本から遠い異国の山岳地域の幹線道路で、
ひたすらバスを待つ。気分は・・・というか実質ヒッチハイカーですね。
これもまた旅なのだな。
本当に今日中にメンドーサに辿り着けるのか?と、かなり不安に
なってきた昼前に、アルゼンチン人のニーちゃんが来た。
話してみると、ここには昼過ぎじゃないと路線バスは通らないらしい。
果たして、昼過ぎに行きと同じバス会社のバスが停まり一安心。
メンドーサでは他のホテルを予約していたが、行きで泊まったホテルに
行き、ドミトリー(相部屋)なら空きがあるということでOKしてもらう。
部屋には他に3人ほど泊まって、女の子も2人。ドキドキして眠れない・・・・
なんてことはなく(笑)、さっそく昼寝。夕方はいざ出陣、2週間ぶりに
食うぜ!喰らうぜ!と地球の歩き方大先生が紹介していた食べ放題の店に
向かう・・・が、システムがスペイン語で説明され、あえなく撃沈。
アコンカグア同様、1回目のアタックは失敗の模様です(苦笑)。
しょうがなく、街中をしばらくぶらつき、写真と値段のわかりやすい
お店のネーチャンに頼んでステーキとよくわからない?スープみたいなモノを
頼む。でてきたのは・・・南米らしい、まさに『肉の塊』。
まず固い、とにかく噛むのが大変。柔らかジューシー?素人は引っ込んでろ的な。
あと味付けも塩オンリー、素人は(ry・・。
アゴを痛めつつ(笑)、なんとか完食。一緒に頼んだスープもクリーミーで良し。
とにかく腹いっぱいで店員のオネーチャンも、感じよくてなかなかに満足でした。
帰りは夜10時ぐらいでしたが、土曜の夜ということか、人も多く
本当に南米?というくらい治安に不安は感じなかった。
2/3(日) 8:45Mendoza~16:00Santiago
本日は長距離バスで国境を越えてチリ・サンチャゴへ戻る。
チケットは事前に購入しておいたので、安心安心。
バスターミナルで土産とか買っていたら少し遅れそうになり冷や汗。
受付でバスの発着場所を聞く、数字が聞き取れたのでその番号のバス停に
行こうとしたが、どうもそのスタッフの言う番号と目線の方向が違う。
不安に気づいてスタッフさんは指さして教えてくれた。
本当に今回は現地の人に助けられっぱなしでした。親切な南米の方々に感謝。
それにここら辺のバスは基本的に時間キッチリに出発します。
本当に南米をいろいろ誤解していました、スンマセン。
バス内で朝食を食べるといつのまにか爆睡。
こちらの長距離バスはホント快適です。昼に国境越え、
どうやらこの国境は夜にチリ→アルゼンチン、昼にアルゼンチン→チリと、
時間で区切っている模様?
行きはそうでもなかったが、帰りの今回はかなり手荷物検査が厳しく、
特に検疫はワンコまで動員してチェックしていた。ワンコかわいいよワンコ。
夕方、サンチャゴに到着。
今日の宿泊ホテルは行きと同じホテル。サンチャゴはやっぱり暑い!
夕方は軽く観光して南米最後の晩餐を楽しもうと思ったが、
ホテル到着と同時に腹の調子がおかしくなり、以降夜中まで
部屋とトイレを行ったり来たり・・・(泣)。
最後までこれですかそうですか。
2/4(月) 17:30Santiago市街地~18:45/21:45Santiago ArturoMerinoBenitez国際空港
2/5(火) ~6:00/11:00Canada・Toronto Pearson国際空港
2/6(水) ~15:00成田国際空港~19:00新宿BT~21:00富士河口湖町
いよいよ長かった南米の旅も最終日。
前夜からのゲ○で、よく眠れなかったが苦笑、泣いても笑っても今日が
最後なので、気力を振り絞って観光に出かける。
サンタルシアの丘でサンチャゴの街を一望し、時間もあるので
一度外国の動物園に行きたくて、訪れると月曜休園・・・こんなんばっか(泣)。
ま、気にせずそのまま中央市場で魚見る。レストランも併設されていて
旨そうではあったが、いかんせんスペイン語ばっかで注文も大変そうだったし
腹の稼働率も芳しくないのでまあ次回。次回っていつよ?
特定の観光スポットを見るというより、サンチャゴをぶらり
『もやもやセヌ~ず』といったとこか、知らない人?はスルーして下さいな。
そんなこんなで、夕方。空港行きバスまで少し木陰で休憩していると
犬が寄ってきた。別に懐くわけでもエサをねだる訳でもなく近くで寛いでいる。
南米では市街地に野良犬が多い。しかもけっこうデカイ奴。
凶暴という感じはなく(カワイイ感じでもないけど))、みんなほとんど気にしない。
ここら辺も異国だな~と、その隣人を眺めつつ南米最後の時間を過ごしました。
バスで空港へ向かい、夜にまた長い空の旅に出発。
最後のサンチャゴの夜景はとても綺麗でした。トロントで乗り継ぎ、
30時間近い移動の末、3週間ぶりの日本。異国から帰ってくると
当たり前の日本がとてもリラックスできますね。
移動も楽、モノを買うにもイチイチ日本円に換算する必要もなく、
治安も良い。"アタリマエ"がアリガタイ。
最後の気力を振り絞り(笑)、河口湖町着は21:00。
帰国祝いに一人静かに祝杯と日本食を堪能すべくスーパーに行くも、
ほぼ売り切れで不完全燃焼な感が否めない祝杯(笑)でしたが
それでも3週間ぶりの米と酒は旨かった!
【総括】
なにはともあれ、無事狙ったルートから登頂と、
当初の目的はほぼ達成できてまずは一安心です。
流石に7000m近い標高なので、高所登山のイロハを多く学べました。
特に歩くことのキツさとコツ、水分摂取の大事さんなんかは
知識以上に体験することが重要なんですね、痛感しましたハイ。
他の細かいところはそろそろ書くのもメンドーになってきたので(笑)、
あとはググルか本人にでも聞いて下さい。
中国もそうでしたが、大陸の自然というのはやはり、
そしてとにかく『デカい』の一言です。
アコンカグアは勿論、BCに行くまでのキャラバンや登山口までの
バスで見た風景でさえも本当に雄大な景色が広がっています。
そしてそこで生きる人たちにも本当に多くを助けてもらいました。
トロントの空港で荷物を一緒に探してくれたヒゲのおっちゃん、
サンチャゴの空港で親切にバス停教えてくれたニーチャン、
パーミッション(登山許可証)共同取得誘ってくれたカナダ人のJulian、
サンチャゴホテルで寝坊スタッフのオッサン(おまえはもう少しガンバレ)、
長距離バスのチケットを親切に説明してくれた受付オッチャン&オバチャン、
昼飯でオススメのパン教えてくれたパン屋のバーチャン、
BTで小銭探しに苦労してるのを、笑顔で待ってくれた売店のネーチャン、
メンドーサのホテルで親切にしてくれたスタッフの皆さん、
登山口のバス停でわざわざ下車を教えてくれた運転手のオッチャン、
キャラバン中やBCでいろいろ面倒見てくれたレンジャーの皆さん、
登山活動中、何度も声を掛けてくれた米国人女性ペア、
夕食で一生懸命メニューの説明してくれたウエイトレスさん
バス出発で遅れそうなとき、素早く教えてくれたバス会社のニーチャン、
最後の観光でドーナッツを1個おまけしてくれた露天のオッチャン、
帰りのバスでバス通過時間教えてくれたニーチャン・・・
その他にも、一瞬でしたが多くの出会いに救われました。
ありがとう、南米の大自然、そして南米の人々。
アコンカグアは位置こそ日本からみると地球の裏側ですが、
現地のアプローチは整備されており、
三週間の休みと30万チョイの予算で登れる7000m級の山です。
難易度もノーマルルートであれば特に技術も必要なく、
その他にバリエーションもあります。
登山をしっかりやっている学生さんや、これから
高所登山を考えている方には是非オススメします。
さあ、次はどこへいこう?