2011年2月12日(土)~13日(日) 一泊二日
メンバー:CL妹尾(記)、盛山、斉藤
各自の都合や行きたいルートの関係上、まつど岳人内でのアイスはどうも今回が今シーズン最後っぽい・・・なのに、気合入れたいのに、なんで折角の三連休で天気悪いねん、なんか悪いコトしたかっちゅうねん。
まあ、金曜は捨てて、天気悪い土曜をアプローチに使えば大丈夫だろう、と荒川出合に行ってきました。どんなに天気が悪くても取付までは行く。それがアルパインクライマーの矜持なので。計画書には何気なく『新雪なので、念のためビーコン持参で』と書きましたがよもや・・・。新雪はナメたらアカんという貴重な経験が出来ました。
12日 12:30京王八王子駅~15:15/15:45奈良田~18:00荒川出合
前日に都心でも積雪があり、荒川出合はどんな感じだろうと思いを馳せながらのんびり昼集合。本日はアプローチのみ。八王子で集合し盛山車で一路奈良田へ。
奈良田手前はちょっとした吹雪、今日のアプローチが核心かなァ・・・と少し憂鬱。しかし、駐車場から出発する頃には小康状態となり、30分も歩くと晴れ間に夕日が顔を出してきた。ダメもとでも律儀に取付を目指す岳人に対して山の神様も粋なもんだ。林道は除雪されており、普通に歩ける。所々凍結しており滑りそうになるのをお互い笑いあいながら2時間ちょいで出合まで到着。適当なところに幕営。本日夕食はキムチ鍋。最近、鈴木シェフがまつど岳人に加入したせいで夕飯のスタンダードが急上昇。一度上げたスタンダードを下げるのは難しく、食当妹尾も精一杯がんばりやした。夜は地吹雪があるものの、月明かりが眩しいくらいのドピーカンでした。
13日 6:45荒川出合~7:15/7:45三ルンゼ出合~8:25アーリースプリング取付手前9:00/9:30三ルンゼ出合~11:30奈良田~15:00JR八王子駅
帰りの残業(10kmの歩き)があるので、早めに出発したかったが少し遅め。本日の狙いは当初ネルトンフォールあたりだったが、ネットに掲載された某パーティーの報告に載っていた写真の一枚に、小さくではあるがアーリースプリング(3P、Ⅳ+級)の白いラインが見て取れた。この近年氷結稀なルートをもしかしたら登れるかもしれないと思い、三ルンゼへ向かう。今回は他パーティーは皆無。真っ白なルンゼをラッセルしながら登高していく。
前方にブライダルベールが威風堂々と聳える。来年、是非挑戦したいものだ。で・・・その隣に目をやるとアーリースプリング。上部は大丈夫そうだが、下部は微妙そう。傾斜は緩いので、プロテクションが取れるかどうかが問題。ガッツりバーティカルなアイスもいいけどベルグラな悪い氷こそアルパインの真髄だと信じ、もう少し近くで判断するためさらにラッセル。右のナメ滝の取付下は胸ラッセルほどになる。あと30mぐらい、というところで盛山サンがラッセルを交代してくれた。ありがたい、これでゆっくり観察できる・・・・そう思った直後だった。
”ばすッ”
破裂音にも似た重い響きと同時に、盛山サンの左手に3~4mほど亀裂が走った。全員の足裏に間違いなく”巨大な何かがズレた”感覚、もとい衝撃が伝わる。
『ヤベえ、雪崩れるぞ!!、降りろ!』
盛山サンの怒号と同時に3人とも、弱層をこれ以上刺激しないよう、かつ全速で引き返す。亀裂の起きた場所の傾斜は40度もない程度だが、少し下ると傾斜が強くなる。流されれば間違いなく誰かは埋まる。祈るように下る。
幸いにもそれ以上何もなく三ルンゼ出合まで無事下降できた。まだ朝9:00過ぎなのに、ドッと疲れた。別ルートに転戦も頭をよぎったが、こんなときはヤマに執着しないほうがよい、というのはクライミングを始めてからくだらない自業自得で何度か危ない目に遭って(そして幸運にも切り抜けられて)得た教訓なのだす。
天気は最高。そんな中をハイキングのように林道を戻る。登りたかったという気持ちと3人無事に戻れることの安堵感がいり混じって複雑な気持ちだったが、それもまたヨシとしよう。来年登る楽しみが増えたワケですからね。とりあえず往復20kmの歩荷訓練お疲れ様でした(笑)。
********************************総括*******************************
とりあえず新雪直後での行動はCLとして、もう少し慎重になるべきだったのは猛省すべき点でした。ただ、それでも今後似たシチュエーションであっても取付まで行く、という鉄則は曲げないと思います。今回の場合は、アーリースプリングの取付ではなく、三ルンゼ出合で行くかどうかの判断を下すのがベストな判断でした。
しかしそれも結果的というか、後付な結論であることも事実なな点が難しい、というのが本音です。もしあの亀裂が発生せず、そのまま突っ込んで運良く登れれば、『やはり取付まで行って正解だった』という結論が間違いなく出てたのは容易に想像できます。
今回の雪崩未遂?で痛感したのは、こういった際どい状況が今回で最後ではないこと、そしてそれを切り抜けるための『防御力』を高めていく必要がある、という2点です。
まず、今回は確かに新雪リスクへの読みが甘かったワケですが、じゃあ二度とこんな目に遭わないように例えば雪崩リスクをゼロにしてしまうと、これから目標にしていくであろうルートのほとんどがアウト、という状況になりかねないワケです。勿論、新人を連れて行くようなルートではそんなリスクはほとんどとりませんが、まつど岳人の主力もソコソコの実力・経験を持つようなってきたので、今すぐにという訳ではありませんが近い将来、際どいリスクマネジメントを受け入れないと取り付けないルートも出てくると思います。それは時に新人教育レベルではタブーとされているような選択も含まれ、ロシアンルーレットというのは言い過ぎですが、不確定要素を完全に取り除くことは技術・経験が蓄積され、よりシビアなルートへ向かうほど困難だと思います。そもそも完全な安全が存在してしまえば、冒険でもアルパインでもなくなってしまいますしね。
じゃあ、イチかバチかをこれから延々繰り返すのか?と聞かれれば、それもノーです。リスクをゼロには出来ないけど、極力低下させる『防御力』を同様に高めれば、これまでとトータルの安全性は変わらないと思うからです。(以前、某雑誌で某有名クライマーが似たようなこと言ってた気がします。)そしてそういった『防御力』は本やネットから学ぶものではなく全力で登ることでしか得られないモノなんですよね、たぶん。際どいシチュエーションをなんとか切り抜けていく経験の蓄積こそが『防御力』だと。
でも、それは本チャンのみならず、例えば普段のトレーニングとかゲレンデでのクライミングでも意識すればやれることは膨大にあります。際どい状況の時だけ安全を考えるのではなく普段から本気で登り、考える。当たり前のことを当たり前にするのが一番難しいんですけど。まつど岳人も創立から10年を経て、次のステップへ進化するために各自が本気で考えられればいいですネ。
ま、とりあえず冬は雪の状況・ゲレンデor本チャンに関わらずビーコンは必携しましょう。
まだまだ甘いですね、勉強勉強。
雪崩は不可抗力の災害ではなくて、ある程度まではメカニズムが解明されています.一方で雪崩に関して古い価値観にとらわれている人も多く、一流と言われた登山家の「豊富な経験と勘」の中身は、じつは「根拠のない自信」でしかない.
と、いうのは中山建生さんの「雪山の基本」からの超要約.
まあクライマーは雪崩のリスクを極力避けるのが基本なので、勉強熱心なバックカントリースキーヤーに比べて雪崩の教育、研究が不足しているのは確かかも.なんておれが言えたことではないですが.
ただ実際のところ松戸岳人の雪崩知識が不足しているのは確かかもしれない.私も雪崩の教育、経験が不足しているのは確かですが、以下の本を読んで目からうろこが落ちました.知らないってのは怖い.よかったら読んでみて.ほとんどの本はバックカントリーを念頭に置いているけれど、クライマーにも役立つはず.
・「ドキュメント雪崩遭難」阿部幹雄
過去の雪崩事故8例の検証報告.雪崩を知ること、先入観をもつことの怖さが分かる.
・「雪山の基本」中山建生
ビギナー向けだけど、概要を知るにはいい.
・「雪崩リスク軽減の手引き」出川あずさ、池田慎二
上記本よりかなり詳しい
・「決定版雪崩学」北海道雪崩事故防止研究会
リスクの高いところへ突っ込むなら、これ
・読んでないけど、他にも「雪山に入る101のコツ」(中山建生著)、「雪崩ハンドブック」(D.マックラング他著)なんかもいいかもしれない
投稿情報: ゴルゴ | 2011/02/23 00:14
さすがまつど岳人の博識。
是非レヴューをお願いしますね、情報共有ってことで(笑)。
投稿情報: 管理ビン | 2011/02/23 13:17
やっぱちゃんと勉強してるんだな。
俺も読んでみるかな。
投稿情報: 宋一孝。 | 2011/02/23 22:40