2010年4月30日(金)〜5/2日(日)
森(記)、日置
屋久島・宮之浦川に行こうと言ったのはもりもりさんだったか.ネットで調べてみると1kmに渡って続くゴルジュと50もの滝.スケールの大きな山旅になりそうな予感.一孝さんがかなり慎重姿勢だったけれども、議論の結果とにかくここに決まった.出発直前、リーダーだったもりもりさんが家族の怪我で行けなくなり、一孝さんと二人で行くことにした.
なかなか手強い沢だった.いい経験にはなった.しかしその反面、薮漕ぎ(高巻き)に終始して、山登り・沢登りとしての楽しさはいまひとつだったと思う.
4/30 鹿児島南埠頭7:00=(フェリー)=11:20屋久島宮之浦港着→食事&買い出し=(タクシー)=宮之浦林道ゲート12:56ー14:20潜水橋14:36ー15:35ビバーク地
7時発のフェリーで屋久島へ.GW中だが平日金曜ということもあってフェリーは比較的空いていた.船内でクライミングらしき三人組を見かけ、なーんかひとりはどっかで見たことがあるようなないようなと思っていたら向こうから声をかけて頂いた.何と鹿川でお会いし、そして私の福岡での学会の際にピナクルの例会にお招き頂いたキーボウさん(現在は熊本のあそ望山岳会)でした.失礼しました&お久しぶりです!全長22Pのミルキーウェイ(!)その他モッチョム周辺の壁に登られるそうです.
宮之浦到着後、観光センターで飛び魚丼を食べ、タクシーで林道を遡る、、、、、、と思いきや.林道入り口のゲート閉鎖.致し方なく10kmの道のりを延々歩く.途中やたらと鹿に遭遇する.捕食者がいないのか?この島は.とにかくすごい頻度で見かけた.前日の霧島岳を走った影響で太腿が筋肉痛.後半左膝に力が入らない感覚に襲われたが、何とか潜水橋に到着.装備をつけて遡行開始.
この川は、、、、、石がでかい.花崗岩の巨石が進路を塞ぐ.そして何たる水の量.水線が苔より2,3センチ下なので、通常よりは少ないのだろうが多いのには違いない.この日は行動時間が短いので、水中に没してパンツを濡らす気にはなれないし、第一入ったら流されそうだ.濡れは膝程度に留め、右岸に左岸に飛び移りながら遡って行く.ナベカケ沢を少し過ぎた左岸林の中の巨岩上でビバーク.インゼルが枯沢になったところで、時々沢から冷たい風が吹き抜ける.私は大丈夫だったが、一孝さんの怪しいシュラフではちょっと寒かったようだ.
5/1 ビバーク地6:16ー第三巨石上7:50ー竜王滝下9:30ー滝上、十字峡手前15:30ー18:10F22下のビバーク地
しばらく快適に川を登って行く.15分ほどで、前方に絶望的なスラブ壁が見えて来て、マンベー淵に突入.
しばらくは河原を歩く.第一巨石は岩の下をくぐり、第二巨石は淵に浸かって進み、岩上を回り込むように越える.第三巨石は完全にゴルジュをふさぎ、滝となっている.右岸にハーケンの打たれた登路があるが嫌な感じ.気が乗らない私を横目に気合い十分の一孝さんが空身でリード.チムニー登りなのでさほどの危険は感じないが、狭く屈曲していてトリッキー.ザックを背負っての突破は無理だろう.
さらに進むとF10らしき滝.直登は不可能.
遂にここから高巻き天国が始まる.右岸の凹角も行けそうだが傾斜がきつい上、かなり上部まで巻き上げられそう.左岸はかなりブッシュが覆っていて行けそうなのでこちらを選択.一見簡単に巻けそうだったが、スラブ壁に突き当たり思ったよりも巻き上げられた.途中のトラバースで一回だけロープを出したが、ここも結局上に巻くことになったので結果的には必要なかった.しばらくトラバースしたところで降りられそうなところを発見.懸垂で途中まで降り、そのままトラバースしてついでにもう一個の滝も越す.この時はやれやれ大変だったと感じたが、竜王の高巻き後に思い返すとこんなの屁でもなかった.
前方に竜王の滝が見えてきた.50mほどの滝が二段に連なり美しい.
しかしどう考えても直登は不可能.また両岸とも100mを越すスラブ壁が聳え、高巻きも容易ではなさそう.登り出しに関しては左岸のチムニーの方が簡単そうだったが、一孝さん情報によると右岸の方が容易らしい.下からみると高巻きルートも右岸の方が明瞭そうだったので、こちらを選択することにする.出だし、ノーロープで少し登ったところで正面に大きくハングした岩のルンゼ.左右どちらも行けそうな感じだったが、下から見たところでは右を登った後ブッシュが続いていないような覚えがあったので(後で写真を見返したところ最後にスラブ壁にぶつかって進めなくなる)、左のチムニーを選択.1P目は森リード.薮を少し登ったところで垂直なチムニーにぶつかる.IV-かIII+か.チムニーなので落ちる心配は少ないが、ザックが邪魔でかなり登りにくい.特に出だしが狭くて苦労した.2ピッチ目(一孝)は岩の下をトラバース気味に進むと歩きやすいルンゼに入る.ザイルを外してすぐにまた岩に阻まれる.再度ロープを出しルンゼの右側を木につかまりながら登って行く(一孝).とても登れなさそうな壁に頭を押さえつけられながらさらに2ピッチ進むと大きなスラブ壁にぶつかる.ここはスラブを斜めに横切るバンドを登る(森).パッと見は高度感はあってかなり怖いのだが、とりついてみると傾斜が緩くそれほどでもなかった.むしろ次のピッチ(一孝)の方が灌木に邪魔され身体を空中に投げ出すことになって怖い.ここで深いルンゼにぶつかる.トラバースは不可能.さりとてルンゼ内もよく見えない.右往左往しているうちに、ルンゼ内を望める場所に行き着く.懸垂1ピッチで下り立つと、岩がゴロゴロしているが、歩きやすい.このルンゼをそのまま詰めた先のコルから更に尾根を上方右に巻いて行き、木の多いところから懸垂二回.沢の近くまで到達.ここから歩いて沢に戻った場所が竜王の滝二段目の落ち口.まだ直登不能の三段目が残っていたので再び右岸トラバースに戻って越えた.結局この竜王の滝の突破に5時間もかかってしまった.落ちたらサヨナラのところが続き、ルートファインディングも難しく精神的にかなりキツかったが、最難関部は越えたことで少し安心した.
少し進むと右手に本流の狭いゴルジュ.ここが十字峡、というかT字峡.
直進する支流の方が川幅も広いし、水流も十分.一見こっちの方が本流に見えるのだが、まあ右の沢は宮之浦岳に直接突き上げるのだから本流でいいのだろう.本流はとても登れそうにないので、そのまま支流を直進、すぐ先の二俣を右に入り、そのまたすぐ先で白糸状の滝を左に見ながら右手のルンゼを詰めて行く.詰め上がったコルから樹間にどこかの山頂が見える.後から考えるとあの形は宮之浦岳だったようだ.
ここからまっすぐ斜面を降りて行き、少しトラバースした後これ以上進めなさそうになったし、ちょうど懸垂に使ったかのような残置ボロシュリンゲを見つけたので懸垂下降.しかし先に降りた一孝さんがこの滝は登れん!と知らせてきたので、再び登り返してもらった後、水の流れるルンゼを2ピッチ登ってコルへ.一孝さんが「薮漕ぎばっかでもう飽きたな」それはおれも思っていたー!なんかほとんど水に触れることがなく、あんま楽しくないんだよな.
ここからトラバースしたところで下降不能なルンゼ滝にぶつかる.仕方なくもう一度コルまで戻り、歩いて沢へ戻ったところが恐らくF22の下.
既に18時を回っていたので、ここでビバークをする.昨夜の反省を生かし、灌木の中の風の当たらなそうなところをビバーク地にする.柳系の木が少々邪魔だったが、うんとこと折り曲げて空間を確保.ちょうど二人分の広さだったが、風も通らず快適快適.
5/2 F22下6:30ー8:30F30下8:40ーゴルジュ終わり10:45ー11:05二俣11:25ー12:24稜線12:56ー13:14分岐13:20ー13:35宮之浦岳13:42ー15:06高塚小屋15:17ー17:20荒川登山口
一孝さんがカレーうどんというナイスな朝食を準備していたので、朝からテンションが上がる.F22は右岸を小さく巻いて落ち口に出る.しばらくは河原と10m以下の滝の小巻きを繰り返す.両岸のゴルジュもだいぶ低くなってきて、風景も優しくなってきた.竜王の滝で感じた悲壮感も消え、穏やかな感じで進んで行く.右岸のゴルジュ壁が完全に消えたところがF31.この右岸を巻き、懸垂して河原に降りると、再びゴルジュ壁が高く狭く聳えたち(と言っても50mほど)絶望的な感じを与えている.両岸とも尾根に近い部分まで高巻いて行けば何とか突破できそうだが、左岸は上がる場所が見当たらない.右岸はF31の落ち口まで一旦戻り、5,60m近く登って行ってから密な石楠花の中を強引にトラバースしていく.かなり進んだところで前方に岩ルンゼ.ルンゼ上方は樹林帯に消えていたので更に登って越える.ふと対岸をみるとだいぶ向こうに離れていた.地形図を確認するとゴルジュは終わったようだ(ちなみに私は十字峡の巻きでふところの地形図、コンパスを失くしてしまった).大木の多いところを選んで下降して行くと、あっさりと河原に下り立つ.ゴルジュは完全に消えていた.ここからたくさんの小滝が現れたが、ほぼすべて直登可能.快適.二俣からは易しそうな右俣を進む.もはや難しいものは何もない.沢が石楠花に完全に覆われたところを越えると、苔が広がり箱庭のような風景に.
ちょっと進むと稜線だった.終了!実質1日半しか歩いていないけど、精神的には長かった.
装備を外し宮之浦岳の山頂へ.
一孝さんは帰りの便が6日で、しばらく時間つぶしに山の中にいて、この日は新高塚小屋までしか行かないという.既に13時半を過ぎ、下山しても荒川登山口17時の最終バスには間に合わなそうだったが白谷雲水峡から宮之浦の集落までなら5kmしかなく、この日中の下山も可能に思えたので山頂で別れてひとり下山することにした.昭文社の地図だと焼野三叉路から高塚小屋まで3:20になっていたが、よっぽど甘くつけてあるのか実際は1時間10分しかかからず.これなら17時の最終バスに間に合うかもしれないとダッシュで降りていたら小杉谷付近から大量のハイキング客(←大半は観光バスで来てるらしい)に阻まれ、道がトロッコ軌道上になって走りづらくなり、さらに道の崩壊で大きく迂回を強いられることになった.もう無理とハイキング客の人たちとしゃべっていたら、どうやらGW中は臨時に18時までバスがあるらしい(HPに載ってなかったぞ!).それなら余裕とのんびり下山.17:30のバスで世界遺産センターまで.停車していたタクシーを捕まえ(何と行きと同じタクシー!)、周囲の人と乗り合わせて宮之浦まで戻ったのは19時近く.まだ十分明るかった.
観光センターで荷物を受け取り、汗臭くっいので風呂に入りたく10軒ほど民宿へ電話したが全て満室.諦めてキャンプ場泊.翌日正午のフェリーで本土へ戻る.キー坊さん達も3日に帰るとおっしゃっていたので、同じ船に乗り合わすかと思っていたがいなかった.高速船トッピー(予約いっぱいで当日乗船は不可)かな?
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感想その他:今回はなにより高巻き.高巻きの難しさをよくよく実感した.へちょい沢なら適当に行っても何とかなるだろう.しかし今回の宮之浦川のように100mものゴルジュに巻き上げられ、進んだ先でスラブ壁に阻まれるような難しいところでは何とかなるでは、、、、、まあ我々もボケナスではないから何とかなるんだけど苦労することになる(最初のF10なんかそうだった).高巻きはこのルートでいい、こっちなら安全だという確信が必要だと思う.事前に下からルートを観察し岩の弱点を見極めるのは当たり前として、視界のきかない樹林帯のために目標となる木を正確に記憶する必要がある(もちろん見えるところしか予測できないが).これをやった後半は高巻きのスピードが全然違った.きっとこれからのためにもいい経験になるだろう.でももう一回来ようとは思わない.高巻きが多過ぎて山登りとしての楽しさはいまいちだった.あれはいわゆる挑戦だ.そんなもののために山に来ているのではない.
高巻きでは苦労を強いられたが、我々が行く先々どこでもでシカの糞に遭遇した.こんな難しいゴルジュでもシカが入り込んでいる事実にはとにかく驚かされた.高巻き中に時々遭遇する杉もとにかく太い(←目印に最適).日光辺りに生えるスラッと長い杉とは全然違う.とにかくダイナミックな島だった.ただちょっと縄文杉その他の有名杉は微妙.ただの老木だ.生命科学を修めた者として4千年生きたメカニズムには興味を引かれるが、見た目は衰弱した老木.沢登り中に屋久島の熱さを感じた後では感慨は薄かった.
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装備:8mm×40mロープ×2本(←いい選択だった)、リンクカム1, 0.75, 0.5、ボールナッツ(使用せず)、アブミ(使用せず.不要)、フラットソール(使用せず.不要)、ハーケン数本(使わなかったが勿論あった方が良い)
お店情報など
屋久島観光センター(宮之浦):お土産屋&登山用品レンタル屋さん.ガスボンベ他ちょっとした登山小物も売っている.利点は何と言っても営業時間(朝8:00-夜22:00).二階の食堂も朝9:00-21:00L.O.で営業しており、屋久島の魚介類を堪能できて利用価値高し(私、ここで3回も食事しました).荷物も預かってもらえる(2日で500円.コインロッカーもあり)
ナカガワスポーツ(宮之浦):観光センターから安房方面に5分ほど歩いたところ.小さな店だが、登山用品はひととおり揃っていて、クライミング用品もある.
好日山荘(鹿児島市内):帰途空港連絡バスに乗ろうとして、天文館(鹿児島市の繁華街)に好日があるのに気付いた.マルヤ・ガーデンの中.
オーシャンビューキャンプ場(宮之浦):宮之浦川河口右岸にある(観光センターから徒歩20分).受付は観光センター(1泊800円).整地されて水とトイレがあるだけで電灯すらないが、海が目の前で素晴らしく気持ちいい.設備が簡素なのが幸いしたか利用者も常識的で、遅くまで騒ぐものはいなかった
コインランドリー:国道沿い、オーシャンビューキャンプ場への入り口とヤクデンスーパー横にあり.
風呂:便利な場所にはない.バスで10分程の楠川温泉が宮之浦からの最寄りだが、足がないと行けない.レンタサイクルを借りれば良いかも.民宿に泊まって入るのが無難だが繁忙期は満室で不可.私はキャンプ場で皆が寝静まった夜中に水道水で洗った.裏技として屋久島フェリーでエグゼブティブ席(+千円)に乗り、シャワーを使うという手もある.
改めて読み返すと結構否定的な書き方をしていますが、スケールが大きく、景色も美しい素晴らしい沢でしたよ.いいか悪いかと聞かれたら断然良かった!と答えます.
ただほとんどの滝が直登できず、ひたすら高巻きを強いられるのがストレスだったということです.
投稿情報: ごーるご | 2010/05/29 08:41