3月15日
十八切符で移動。信濃大町の駅の駐車場にテントを張って寝る。
3月16日
信濃大町5:00-白沢天狗尾根取付7:40-営地15:20
徒歩で出発。いい天気で爺ヶ岳がよく見える。これから登る白沢天狗尾根もよく見える。白沢天狗山を越えれば藪はうるさくなさそう、上部は楽しい雪稜の空中散歩が楽しめそうだぞ。いい気分で歩いていく。
白沢天狗尾根にはヨセ沢出合から右岸の尾根に取り付く。雪のない急斜面を登る。なんだか沢登りの高巻きをやってるみたい。でも足元の泥は凍ってガチガチ、踏み後も見られず、荷物も沢登りと比べればはるかに重い。雪が出てくればグサグサのラッセルとなり、だんだん天気も悪くなってきた。
中途半端にクラストした雪の下はザラメ雪、たまに空洞になっていて落っこちたりする。まあよくあるあれでなかなか前に進まない。雪も降ってきた、風もでてきた、一歩進むのに三回雪を踏んで固めなければいけない。進まない。
藪と雪の斜面をようやく登りきる。よく地図を見ていなくて、この時はそこが白沢天狗山の山頂と思っていたが、実際はその一つ手前の小ピーク。いったん下った先に風の当たらない少し開けた場所があった。さてどうしたものか、ここにテントを張りたいがまだ時間がある。でも風も吹いているし、このまま樹林帯を抜けてしまったらトーチカでも作らないと幕営できなくなってしまうかもしれない。いや、やっぱりまだ早い、もう少しだけ進んでみようと一歩を出したら、かんじきを引っ掛けて高級雨合羽を破いてしまった。山行そのものも考えなければいけないほどの見事な裂け方、無理にあと一、二時間進んで服を濡らしても面白くない、まずここで幕営しよう、先のことはテントを張ってから考えればいいさ。
翌日の天気は午後から回復するとラジオは言っている。樹林帯を抜ければこんなラッセルもなくなるだろう、冷池山荘に入れば濡れた服だってどうにかなる。よし、明日も前進しよう。
3月17日
営地7:30-2060高地11:40-爺ヶ岳山頂17:15-19:00冷池小屋
なんかよく眠った。今何時だ、げっ、もう六時じゃん。あわて準備して出発。まだ吹雪いていて時々雷の音も聞こえる。雷の中ピッケルもって雪稜には出れないな、遅れたのはちょうどよいか。楽観的に考える。
アップダウンを繰り返していると前方に岩峰出現、藪と岩なので登れなくはなさそうだが、結構傾斜があり一人では取り付きたくない。見ると右のルンゼから巻いていけそうだ。少し下がりふかふか雪の斜面を全速力でトラバースして登り返す。頭上に張り出している雪屁が不気味だ。
予想は外れてまだまだ藪は続き、ラッセルも昨日にまして激しい。樹林帯なのにしっかり雪屁が張り出していて、木が生えていないところは怖くて歩けない。傾斜のないところで乗ってみたらすぐにずぼっと落っこちてしまったし。
2060メートルのピークに到着。結構時間がかかったな、もう十時はまわってしまったろうかと時計を見るともう昼近い。そんなわけないだろう、時計が間違っていないなら、2060はもうとっくに通り過ぎてしまったに違いない。だが地図を見てもなぜかこんな時に限ってピンポイントで現在地が確認できてしまう。しかし直線距離にして一キロを四時間以上かけた計算になる。天気も回復してきているのに藪はまだまだ続いている、山頂までたどり着けるのか。
東尾根と合流する手前の台地まででようやく藪はなくなった。まだかんじきは履いたままだが、落とし穴を歩くようなラッセルはなくなった。多少は歩く速度も上がっているのになかなか爺ヶ岳に近づかない。今回用意したのは五万分の一、そうか、この地図はなかなか進まないのか、一時間で行けると思ったところもどうやら二時間かかっているようだ。
歩いて歩いて山頂に到着。はああ、長かったぜ、やっと終わった。天気は快晴、剣岳が真っ白、遠くに槍ヶ岳も霞んでいる。
稜線は大きな雪屁が発達している。土、石の出ている一番高いところから水平に伸びていて、谷川あたりの雪屁とは格好がまるで違う。大きいものは二十メートル近くありそうだ。この雪屁の下、まさか直接断崖となっているわけでもあるまいと根元を歩いていたらドスンと右足が落ちてしまった。覗いてもその下どうなっているかよく見えない、こえーこえーを連発して地面に転がり込む。両足だったらどうなっていたか、ただの岩の隙間だったかもしれないが、ああも簡単に抜けてしまうとは、これはまじめに反省する必要がある。
日が暮れて冷池山荘に到着。しかししんどいラッセルだった。とりあえず目標の白沢天狗尾根は登りきったが、予定よりもずっと時間がかかっている。天気予報は明日一日晴れると言っているけど、どうしようか。
3月18日
冷池小屋6:00-鹿島槍ヶ岳山頂9:10-冷池小屋11:15-西沢出合15:00-大谷原16:40-信濃大町20:10
この日の行程は朝目が覚めるまで決めていなかった。目覚まし時計の携帯電話がなり、それを止めるついでに前日撮った写真を見てみた。撮る時は反射して何が映っているかわからなかったのに、意外と綺麗に撮れていた。今日一日は晴れる、一般道と言えどトレースは全くない、そこを北アルプスの絶景を眺めながら歩くことができる、すばらしいじゃないか。前進するに決定。
鹿島槍ヶ岳に向かって出発。だが昨日の疲れがまだ残っているようでザックを背負う肩がいたい、足に力が入らない、なかなかペースが上がらない。ザックを置いて山頂往復にしようか、でも時計を見るとまだその判断は早い、ならそのまま進もう。
山頂到着。五竜岳方面を眺めるとなかなか険しそうだ。見てくれほど難しくないと思うがだいぶ疲れている。今日一日はいい天気としても明日以降はわからない。キレット小屋には泊まれない、行くなら五竜岳まで行かなければならない。もう疲れたよ、この先はまた今度にしようよ、また来ればいいじゃないか。そうだな、今日じゃなくてもいい、ここまでにしておこう。一人で会話して山頂をあとにした。
冷池山荘への下りも元気が出ない、やはり戻って正解だったと思う。朝から黄砂が降ったようで山が茶色くなっているが、雪崩で落ちた部分だけ不気味に白くなっていた。
さあ、赤岩尾根から下山だ。でもなんだ、標識は雪屁の向こうを指しているじゃないか、いったいどうやって下りろというのだ。十メートル以上はあるだろう、ロープも足りない。恐る恐る歩いて雪屁の下を覗こうとするが、おお、見えないじゃん、いや、そんな見えるところまで行けねえよ。走って戻る。少し上のほうは雪屁は出てなくそのまま雪の斜面になっていた。よし、あそこから下りよう。
傾斜のゆるいところ、ハイマツが出ているところを選んで下りていく。するとどうだろう、なぜか赤岩尾根が右に。くそう、間違えたかと上を見ると、上から赤岩尾根に取り付くにも急な雪の斜面をずっと下りて来なければならない、これはいやだ。またここから尾根に移るにもやっぱり雪の斜面をトラバースしなければならず、これもいやだ。稜線からちょっと下りれば無風快晴、ぽかぽかで雪はすっかりズブズブ、困ったな。が、ルンゼの下のほうは少し谷が狭まって、若干傾斜もゆるいよう、よし、あそこから行こう。
全速力で横断、向こう側の藪に到着、更に二、三メートル行きたかったけれど、そこは急傾斜にふかふか雪、実際自分が立っているのも雪ではなくて木の上と言ったほうが正しいか。これは二、三メートルでも入りたくない。仕方ないので上を目指す。またズブズブの斜面をトラバースしたら赤岩尾根に乗ることができた。この雪崩日和にこんなトラバースをするとは、アイゼンはすっかり厚底靴、やれやれだ。
楽勝と思っていた赤岩尾根も上から雪屁を切り崩して雪壁を下りたりと意外と面倒くさい。西沢に下りたいがぐっと我慢。だが高千穂平まで来てとうとう下りてしまった。ゆるい斜面にまばらに樹が生えている。雪はシャリシャリで足元から崩れることはない、小さなデブリがいくつかあったけど、大きいのはないだろうと進んでいったが、下るにつれてデブリは増え、下のほうは完全にデブリで埋まっていた。おお、なんて所に下りちまったんだ、またまた全速力。安易な判断はいけなかったけれど、おかげで早く西股出合に到着できた。トレースのない藪だらけの赤岩尾根を下るのも楽ではなかったろう。
先週歩いたばかりの林道を行く。一週間でここまで変わるものか、ずいぶん雪が解けていた。どうせ今日は家にたどり着けない。それなら大町まで歩いて行ってスーパーの売れ残り弁当をたらふく食べてやろうじゃないか。
しかしこの二本の足というのは素晴らしい、バスやタクシーがなくても時間さえかければどんなところでも連れて行ってくれる。当然腹は減るが質を落とせばそこまで金はかからない。大町では半額弁当を買いあさり、便所の脇にテントを張って就寝。この日も沢山歩いた。
3月19日
始発で帰宅。松本発立川行きなんてあるんですね、たぶん鈍行列車の最速だったと思う。
今回の主役はやっぱりかんじき、全行程トレースなく三日間しっかり使用、全くご苦労な山登りであった。白沢天狗尾根にはほとんど人が入った形跡がない。目印も白沢天狗山の山頂付近で見つけたテープ三枚だけ。計画の段階から地図を見ても難所となりそうな箇所はなく、実際にも難しいところはなかったが、山頂が見えるまでは先に何があるかわからないどきどきがあった。そして可愛そうな雨合羽をびりびりにしての藪漕ぎ、苦しいラッセルの末たどり着いた山頂にはやはり違ったものがあった。
今回使用したのは二万五千でなく五万の地図。行動には全く問題なく、小さな紙に沢山収まっているので意外と使いやすいと思った。しかし地図を見て近いと思ってもなかなかたどり着けないのが難点、まあすぐに慣れてしまうだろう、これからも使っていきたい。
雪屁の踏み抜き、谷への下降等、今回は自分への甘さから危険を感じることがあった。体力、速度の面からも楽をするのは大切だが、楽だけを優先するとひどい目にあう、当たり前のことを忘れていたように思う。注意したい。
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。