2009年2月1日(日)~23日(月)
メンバー:CL妹尾
去年暮れに、当初計画していた南米・アコンカグア遠征を断念し
その代替案をした結果、実質冬山2年目の自分にとって、冬山生活&基本技術の
総仕上げとして南アルプスの厳冬期・単独という条件での縦走を思い立った。
尚、考え方としては南アの「全山」縦走とも無くはないが、知識不足故
「全山」の定義も曖昧、自分よりも厳しい縦走をこなした先人の方々も居る、
そこまで肩肘張った挑戦ではない、ということで単に「南ア長期縦走」とした。
1日 5:45多摩動物公園~10:30JR金谷駅~14:00大井川鉄道千頭駅
~15:30寸又峡~16:30朝日岳登山口
いよいよ最大4週間にわたる長い山行の始まり。本日はアプローチで
ほとんどが電車移動。静岡はポカポカ陽気で、でかいザックとプラブーツを
履いている自分がひどく場違いだった。今日は日曜なので、大井川鉄道は
SLを見ようと観光客で混雑していた。"電車旅"というほどの旅行はしたことが
無いが、今度はヤマ抜きで乗ってみたいのんびりした鉄道だった。
これからの山行への緊張も手伝ってか、楽しそうな家族連れを見ると
ひどく羨ましい。いいなあ・・・。
千頭駅からバスで寸又峡へ。寸又峡から40分ほどで朝日岳登山口へ向かう。
しかし・・・全く雪が無い。今夜の水は寸又峡で補給できるとして明日以降
大丈夫なのかと不安がよぎる。夕食は入山祝いということでキムチ雑炊、
ハンバーグ、デザート付きと豪華。
2日 7:00出発~12:00朝日岳山頂~16:00日向沢ノ頭1800m地点
さあ、いよいよ本格的に縦走の開始だ。幕営地に雪があるか心配だったので、
水3Lを担いで登る。初っ端から急坂が続く。気温も高くヤッケ類もすべて
ザックに詰め込んだのでめでたく30kgオーバーのザックは流石に重い。
朝日岳山頂手前からようやくうっすら雪が現れるが、申し訳程度に
日陰に残っている程度。山頂でようやく20cmぐらいで、少しホッとする。
山頂からは小ピークの登り下りが続く。尾根なのでルートファインディング
には苦労しないが、ほとんど歩かれていないらしく、藪(樹木)漕ぎが一苦労。
ガスっていて、視界も悪く自分の現在地もイマイチでダラダラ歩く。
3日 7:00出発~14:00三方嶺~15:30三方嶺北2127mピーク
風の音が強いが、樹林帯の中なので実際はそれほどでもない中出発。
昼過ぎくらいからようやく一面雪。雪面の下には笹があり、ツボ足が続き
傾斜が無い割にはペースが上がらない。三方嶺からはいよいよ地形図にも
無いルートとなる。気合を入れて・・・と思ったら赤布有。残念、しかし
ちょっとホッとしてしまったのも事実。
日程よりも遅れ始めているが、山行はまだ序盤。「焦るな」と言い聞かす。
4日 6:30出発~9:30大根沢山~11:30 1800mコル~15:00 2107mピーク
今日できれば光岳まで行き、明日を休養日としたい。
朝早くは尾根上の雪も程よく締って快調なペース。大根沢山の下りは
山頂がなだらかで樹林帯の中視界も悪く、進む尾根のルートファインディング
に悩む。赤布も所々にあるが、あくまで自分の読図力に対する答え合わせ程度
と割り切ったほうが良い。
ここら辺はほとんど一般ルートではないようで道は荒れ放題。
遅いペースがさらに遅れる。今は我慢のときなのだろう、あせらず歩く。
結局、光岳など程遠い場所で本日終了。
5日 6:40出発~9:15信濃俣~百俣沢ノ頭14:00~16:15光岳小屋
行動日実質4日目、明日こそは休養日と気合を入れる。
信濃俣付近はくさった雪のラッセル。信濃俣の下りも大根沢山の時同様に
ルートファインディングが難しい。しかもここら辺(特に尾根の斜面)の雪は
表面がクラストしているが、下はスカスカの雪で、踏み抜くと胸ぐらいまで
埋まることもしばしば。
一度、ヤセ尾根の急斜面を登り返すときに休憩時で踏み固めたと思った雪が、
さて行こうと踏み込んだとき崩れて10mほど雪面を滑落。
樹林帯なので手の届く樹木を捕まえて事なきを得たが、ザックが重い分
バランスを崩すと立直しが難しく、特にこんな雪の状態では樹林帯内とはいえ
慎重さが必要と実感。
一度2100mのコルまで下ると後は単調な登り。重いザックに喘ぎながらも
確実に進む。百俣沢ノ頭からはワカンをつけ、最後はようやく冬山らしい稜線
を歩き、光岳小屋へ。
6日 休養日
本日は休養日で、きれいな小屋を独り占め。
休養日は食事も豪華で、朝食はラーメン2食、昼飯?はココアピーナッツ1袋、
夕飯はハンバーグ入りカレーとお汁粉という壮大なものだ。
昨晩は風が強かったようだが、一時的で休養にはもったいないくらい
ピーカン晴れ。昼寝をしたり、文庫本を読んだり、シュラフを干しながら
日向ぼっこしたり。岳人にしか許されない贅沢な1日だった。
7日 6:30出発~10:30易老岳~13:00茶臼岳~15:20上河内岳~18:00聖平小屋
今日からいよいよ南アの主稜線を進む。しかし、なだらかな尾根でいきなり
ルートミス。あやうく違う尾根に進むところで、1時間ほどロスした。
天気は快晴、ワカンで脛ぐらいまでのラッセルは暑い。茶臼岳付近からは
潅木帯となり、風をモロに受けるがそのかわりよくクラストしていて
さながら高速道路のようにペースが上がる。
しかしアクシデント発生。上河内岳手前でなんと右足ワカンが壊れた。
接合部のネジが折れていた。しかたなく上河内岳からはワカン無で
スカスカの雪を時節腰まで埋まるラッセルで進む。
「なんでこんな時に限ってェ!」悪態と怒号の独り言を連発しながらもがき進む。
ヘッデンにギリギリお世話にならずになんとかヘロヘロで聖平小屋到着。
なんと小屋には単独パーティーが二人先客で居た。そう、今日は土曜日
でしたな、忘れておりました。片方は浜松からの方で、他方は
相模アルパインクラブの方。ここで嬉しいサプライズが!浜松の方が下山が
早まったとのことで、いらなくなった食料をワタクシにお恵みになりました。
その日の夕方は、肉・野菜・豆腐等が具の超豪華ラーメンにチーズまで!!!
その日のアクシデントや最悪のラッセルもすべて許せました。
浜松の方、本当に有難うございました。この場を借りて御礼申し上げます。
他の2人に迷惑を掛けないよう、音に気をつけてワカンの修理を夜遅くまで。
多鶴サンのアドバイスで持ってきた針金、あってよかった~、多鶴サン感謝。
8日 7:20出発~10:45聖岳山頂~12:20聖兎のコル~15:00兎岳避難小屋
昨日はアクシデントを含む長時間行動だったので、少しユックリめの出発。
他の二人は一足先に出発。今山行で初めてトレースのある道を行く。
山頂直下の長い単調な登りは本当に長い。時間にすれば40分ぐらいだろうが、
まったく距離が縮まらない感じ。先に登頂した同宿の相模アルパインクラブ
の方に激励を頂き、なんとか強風の山頂へ到着。ゆっくり休憩したいが
冬型気圧配置が強いのか、快晴なのにとても山頂に長居できず先を急ぐ。
しかしこの兎岳までの区間がかなり悪い。まず雪質が表面のクラストとは逆に
その下がかなりスカスカ。傾斜もあり、ハイマツなども埋まっていて、
重いザックを背負っているとかなり難儀する。雪を膝で固めることも難しく、
仕方なくハイマツなどが出てくるまで雪を掘りながら進む雪壁が連続した。
当初は時間的にもなんとか百間洞山の家までいけるかと考えたが、
2時間ぐらいと踏んでいたこの区間に結局4時間以上かかり、
結局時間・気力ともこの区間で使い果たし、荒廃したと聞く兎岳避難小屋へ。
さて、小屋は・・・あったあった、ボロいけどなんとか使えそうだ・・・って
入り口に完全に雪が詰まってんじゃん!、さらに残業・・・苦笑。
9日 6:45出発~12:10百間平~15:00赤石岳避難小屋
本日で今山行の1/3が終了する(最大27日なので)。今日は昨日ほどの
ヤセ尾根は無いので、苦労は無いハズ・・・と祈りながら出発するが、
すこし右太腿が痛む。筋肉痛とは少し違う痛みだが、考えても仕方ない。
大沢岳の長い下りで右足の痛みは酷くなり、ペースが進まない。
赤石岳直下の登りはかなりダマシダマシ登る。聖岳同様、凍結したガレ場の
単調な長いのぼりは本当に長く感じる。でも終わりの無いラッセルも
永遠に続く登りも存在するわけは無い。ひたすら我慢して休み休み登る。
時間的には日没ギリギリまで残業すれば荒川小屋までいけなくも無く、
少し悩んだが、赤石岳避難小屋のしっかりした風貌を見た瞬間に
ここで幕営を決めた(情けない)。足の痛みも気になるし、焦りは禁物。
10日 7:30出発~10:00荒川小屋~13:45中岳避難小屋
明日は休養日なので気合を入れて進みたかったが、夜から明け方にかけて
外は吹雪。最悪停滞か?と思いきや朝には晴れる。肩透かしを喰らった感じで
遅れて出発。荒川小屋までの下りでなんとアイゼン跡を発見。
(中岳避難小屋の記録ノートで判明したが、前日ぐらいにここら辺を
同じルートで歩いていたフカヤさんという方がいたらしい。この時期に
ここら辺を歩く人がいるとは・・・是非お会いしたいと思うが、多分
追いつけないと思う。ちなみにこのフカヤさん、北岳山荘の記録ノートにも
登場し、去年もかなり長期の縦走しているらしく強者のようだ。)
荒川小屋までは順調だったが、そこから中岳までの登りはルート
ファインディングが難しく、ラッセルも続く。2時間ぐらいかと思いきや
またしても4時間以上かかり、なんとか中岳山頂へ。荒川小屋あたりから
雲が出てきて、視界が悪い。時間的にはまだ余裕で、荒川岳(悪沢岳)までの
ピストンも可能だったが、なにか事務的に日程を消化する気がしたので
こんな天気に行くよりも、明後日(明日は休養日)に行こうと判断。
避難小屋は快適だったが、明日休養日をさらに快適に過ごす為に
埋まっていた南向きの窓を掘り起こす。なんかバカなコトやってんな・・・
と思いつつ、ただ食って寝て歩くだけよりも、こんな時間があるのも
悪くないと感じた。今山行は挑戦であると同時に旅でもあるのだから。
(中編に続く)
妹尾さん
聖岳小屋でお会いした相模AC(旧相模労山)の大谷です。
厳冬期期南ア全山縦走のご成功、おめでとうございます!縦走記録読みました。すばらしいです。高い志とポズイティブな姿勢はとても輝いてみえます。これからもどうぞ安全にそして創造的な山行を期待しています。
私は既に還暦を2つ越えていますが、いまなお現役のクライマーです。(主に岩のクラシックルートを登攀してきました)。
昨秋は久々に一の倉中央カンテ、錫杖1ルンぜを登りました。
いつかどこかの山でお会いできたらいいですね。
投稿情報: 相模ACの大谷です | 2009/03/24 22:13
ご無沙汰しております。
稚拙な報告お恥ずかしい限りですが、
読んで頂き光栄です。
大谷さんのように、長く強く攀じっていけるよう、次に
お会いするときまでにさらなる精進に励みます。
今年はフリー能力を強化し今夏に中国・四川の
未踏ビッグウォールに大内尚樹さん等と挑戦する
予定ですので、その報告も是非ご覧ください。
それではまたどこかでお会いできたらです。
投稿情報: ランディ・びん(妹尾) | 2009/03/25 05:18