2009年2月1日(日)~23日(月)
メンバー:CL妹尾
前編に引き続き。
11日 休養日
本日は今山行2回目の休養日。標高も3000mなので、流石に光岳小屋ほど
ポカポカ陽気のお休みとはいかないが、この標高で風をしのげて外が快晴なら
それでもう十分快適とできる。ほとんど昼寝。2時間おきにぐらいに
目覚めるが、そのたびに違う夢を見る。聖岳で人と会ったが、基本的に
この時期、この地域に人はいない。孤独だ。
家族の夢、ハンドボール部の夢、もちろんまつど岳人の夢も。
最近単独の山行が多かったが、まだ2週間近く独りだと思うと流石に人恋しい。
でも良かった、僕は決して孤独を好きではなかった。
ここしばらく疎遠な家族と旅行がしたい、ハンド部のヤツラと昔話がしたい、
大学院の同期とまたバカやりたい、バイト先のメンバーで呑みたい、
勿論、まつどのメンバーとヤマへ行きたい・・・。
本当に独りになると、以下に自分が周囲の人に支えられていたか痛感する。
でもだからといってこの山行を今降りるわけには行かない。どんな結果に
終わるかわからないが、最後まで挑みつつづけてこそ胸を張ってみんなに
会えるというものだ。
12日 休養日
朝、のそのそ出発の準備をする。しかしどうもモチが上がらない。
山行も10日を過ぎると、どうも淡々とその日のルートをこなしている
自分に気がついた。疲労も手伝っている。登山という「非日常」が徐々に
「日常」に代わってきている。ただでさえ、去年末からアパートで寝る日数と
テントで寝る日数が半々ぐらい。
今日も休養日としよう、どうせ予定なんてとうの昔に遅れている。
自由でいよう、ヤマに入ってまでスケジュールに追われるのは悲しい。
13日 6:30出発~7:15荒川岳(悪沢岳)山頂~8:05中岳避難小屋
さあ、モチも体力も完全回復。今日は朝早めに荒川岳のピストン後、
三伏峠目指して進む予定。ピストンは空身(行動食とスコップは携帯)
なので、クラスとした稜線は速い速い。荒川岳山頂は暴風、歩いてきた
中岳方向には雲が湧きだっていて、なんか怪しい天気が・・・。
中岳避難小屋に戻るころは視界が20mくらいにまで落ちる。
小屋中で2時間ほど待機。痺れを切らし、一瞬の晴れ間を見て飛び出すも
前岳でガスの完全なホワイトアウト。危険と判断し引き返すも避難小屋に
戻るのも一苦労。諦めて今日は停滞とする。ダメな時はダメ、割り切ろう。
14日 停滞日
朝も相変わらず暴風・吹雪。よほど荒川岳に好かれたのか・・・苦笑。
本日平地では、噂によるとバレンタインなる行事らしい。拙者には縁も所縁も
ゴザイヤセンが、まあ、折角?なのでお昼にお汁粉など食す。
結局、持ってきた文庫本2冊はこの4日間で読破。ラジオではこの付近を
前線が通過とのこと。まあ、成る様にしか成らない、"ホテル中岳"で
のんびりバカンス5泊4日と洒落こもう。夕方には快晴。
15日 6:00出発~12:45高山裏避難小屋~17:30瀬戸沢ノ頭
5泊した避難小屋ともようやくお別れ、さあ進もう。
4日レストの後なのでガンガン進みたい・・・がそうは問屋が卸さない。
高山裏避難小屋まで3時間位?とおもったら・・・・・7.5時間でした苦笑。
一つ目は、前岳からの600m近くのカールの下降がものすごいクラストで、
当初尻セードで一気に降りようと思いきや傾斜もあり、本気で
滑落しそうだったので、地味に歩いて降りたこと、二つ目はカールの底から
高山裏避難小屋まで、樹林帯の斜面のラッセルが酷く腰~胸まで
埋まりながら時間だけが過ぎていくという、まさに冬山という条件が原因。
4日間のレストで養った英気もあっという間に奪われ、昼過ぎにようやく
高山裏避難小屋に到着。ここで一瞬、今日はここまでという考えも浮かぶ。
次の山小屋まではどうがんばっても今日中には無理だからだ。
しかし、(端くれですが、)一介の岳人が山小屋でないと、というのも
情けない話。幸い、ここから先は樹林帯がしばらく続くので
ラッセルで疲れてはいたが、先に進む。
結局、夕方に樹林帯の尾根に幕営。距離は稼げなかったが、整地も含めて
5日ぶりに心地よい疲労感を味わえた。
16日 6:30出発~8:40小河内岳~10:30三伏峠~17:00塩見小屋
夜に少し吹雪、20cm程積もった。テントがバリバリになり酷い。
準備も小屋の中での撤収と比べるとやはり時間がかかり、小屋のありがたみが
よくわかる。小河内岳まではガスって視界も悪く、頻繁に地形図とコンパスで
チェックする。この区間は尾根もなだらかでルートがわかりづらい箇所が
所々ある。
再び森林限界より上に出ると、猛烈な西風。その代わり足元はラッセル無。
三伏峠付近は程よく締っており、快晴の中久しぶりにのんびり歩ける。
塩見小屋の最後の登りは一度谷を下るが、のぼりの出だしは猛ラッセル。
ヤバイ、このままだと何時間かかるか・・・・と戦々恐々。
しかし、標高が上がるにつれてなんとか歩ける程度にホッとする。
ようやく夕方に塩見小屋へ到着・・・・しかし・・・・屋根まで埋まってる。
しかもどうやらドアに鍵がかかって冬期開放されてないようだ。
ガッカリするが、仕方ない。この標高でそのままテント張るわけにも
行かないので、思い切って雪洞を小屋横に掘ることに。
しかし、偶然にも緊急時用に開放されている別のドアを掘り当てる。
しばし悩んだが、折角なので中にテントを張らせていただく。
夜中、ネズミ?小動物が何匹か運動会をテント横で繰り広げていた。
17日 6:20出発~7:40塩見岳山頂~9:00北荒川岳山頂~13:45熊ノ平小屋
朝イチで塩見岳山頂へ。所々傾斜の強い箇所があり、慎重にこなす。
西風が相変わらず強く(標高3000mなら当然なのだが、)凍傷に気をつける。
塩見岳を越えて標高が少し下がると、しばらくは快調な尾根歩き。
赤石岳からみると遠かった間ノ岳や千丈ヶ岳がだいぶ近くなったなと・・・。
樹林帯に入ると脛ぐらいの単調なラッセルが続き、ここ二日間連続の
長時間行動の疲れもあって、なかなかにしんどい。
今日は無理せず、熊ノ平小屋へ。小屋への下降が若干わかりづらかったが、
なんとか昼過ぎに到着。小屋では10日ぶりにシュラフなど干す。
のんびりした午後だった。
18日 6:30出発~9:00間ノ岳~10:00北岳山荘
~12:00北岳山頂~13:30北岳山荘
予定ではこれ以降に悪天のない限り、休養日を設けるつもりはなかったので
本日は午前中までに北岳ピストンを終えて半日休養日とすることにした。
三峰岳~山荘まではこれでもかというほどの西風の暴風。
気をつけてはいたが、若干顔の左半分・鼻が凍傷気味のようだ。
とりあえず北岳山荘に入り、休憩がてらテントを張り昼からピストンへ。
天気自体は快晴。風も少し収まり、空身で快適なピークハント。
遠くに甲府の街並み。待ってろ、もうすぐ還るぜィ。
北岳山荘は解放されている部屋に毛布数枚あり、ありがたく使わせて頂く。
他に緊急時の無線もあり、この日本で有数の標高にまたがる稜線では
非常に心強く、快適な場所だ。
夕食は豪勢にカレー&お汁粉。明日からいよいよ終盤戦が始まる。
19日 11:40出発~13:00間ノ岳~16:30野呂川越
朝いつも通りに出発、が・・・・天気は晴れだが稜線は暴風、てか爆風。
モロに風を受ける場所では、ザックを含むと90kg近い体重が四つん這い。
昨日なら10分位の距離に40分ぐらいかかる。その時間のほとんどが耐風姿勢。
今山行で最も"危険"を感じた時間だった。当然、山荘に引き返すことに。
しかし、油断していたわけではないがとうとう突風にあおられ、一瞬体が
浮いたと感じた次の瞬間、完全なアイスバーンの斜面を滑落してしまう。
今まで雪訓をはじめ、何度もやった滑落停止だがこの時ほど本気で
やったのは初めてだろう。滑落途中、1,2回小さい露岩にぶつかりながらも
なんとか10mぐらいで止まった。恐怖を感じた、でも生きている。
そのあとは慎重に慎重を重ねて何とか山荘までたどり着く。
山荘では毛布に包まってしばし放心状態で、正直今日は動けない、
というか動きたくないという想いが強かったが、11時過ぎると
風が弱まっていた。正直さっきのショックがない訳ではないが、可能なうちに
この標高から降りることが賢明と判断し、出発。
風は多少強いが、朝に比べればそよ風同然。昨日の午前もそうだが、この稜線
は、朝早い時間帯に暴風が吹くのかもしれない。三峰岳を下る頃には
標高が下がったからか、時間帯がいいのか、風はほとんど問題ないくらいに
なり、樹林帯にはいれば少しラッセルがあるものの安全に歩けるだけ
天国だった。
今日は行動時間が実質6時間程度だったが、野呂川越につく頃にはもう完全に
ヨタヨタになっていた。
20日 6:30出発~9:30伊那荒倉岳南2550mピーク
朝から雪。しかし久しぶりに2300mまで下がったせいか、寒くない。
視界もあまりないが、予定では今日前半は樹林帯の尾根をラッセルなので
気にせず出発。しかし、雪がだんだん湿雪になる。そしてしばらくすると
なんと雨に変わる。雨!?、厳冬期の、2000m級の尾根で雨!?
岳人として言ってはいけないかもなのだが、これは予想外だった。
完全な厳冬期装備なので、残雪期ほど防水に気を使っていない。
ザックはびしょ濡れ、勿論中身も・・・。ヤッケ類も、特にズボンは少し古く、
アイゼンなどで開いた穴から雨がしみる。ほどなく全身びしょ濡れとなり
あえなく幕営とする。
テント・シュラフ類はズブ濡れ。テントに入ってもガスコンロで
一つ一つタオルで拭き、タオルをコンロで乾かし、時には直接コンロで
乾かすという作業の無限ループ・・・・泣。その夜は乾ききるはずのない
濡れたシュラフに入って震えながら一晩を過ごした。
(後編に続く)
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