2009年2月1日(日)~23日(月)
メンバー:CL妹尾
長々とお付き合い頂き恐縮です、ようやく後編ス。
21日 休養日
昨日のびしょ濡れですっかり疲れ果てる。テント内のモノで濡れていない
ものを探すほうが難しいくらいだ。夜も濡れたシュラフなので大して
眠れなかった。・・・というわけで本日は休養日に決定。
天気は快晴。歩こうと思えば歩ける。歩いているうちに少なくとも
衣類は乾くだろう。でもこんな山行は「進めない」から休むのではなく、
「休みたい」から休むというスタンスをならべく取りたい。
静かな森の中で快晴の元、1日のんびりする。考えてみれば最高に贅沢な
休日ではないだろうか。考えてみれば時間を気にせず、三週間以上も
自由に南アを駆け抜けられる。最高に贅沢な山行だ。
ラジオは明日の快晴と明後日の天候悪化を報じた。明日はタフな日に
なりそうだ、予備日の分を残し余分な食料をたらふく食べて明日に備える。
22日 4:45発~9:30仙丈ケ岳山頂~11:15北沢峠
~17:00甲斐駒ヶ岳山頂~19:30黒戸尾根五合目小屋跡
当初、今山行は甲斐駒で折り返し鳳凰三山経由で夜叉神峠での下山を
予定していた。しかし予想通り?予定が遅れていること、ここ数日は天候が
思わしくなく、最悪予備日をフルで使う下山の可能性もあること、
そしてなにより3週間以上の縦走を経て、既に事務的にスケジュールをこなす
しか夜叉神下山はありえないと気づいたことで、これ以上ダラダラ続ける
ことは、この贅沢な山行に何のプラスももたらさないと判断し、
甲斐駒・黒戸尾根からの下山を決めた。
今夜から再び天候が悪化するので、今日中に甲斐駒の山頂は越しておきたい。
つまり今日は仙丈まで500m登り、北沢峠まで1000m降りて再び甲斐駒まで900m
登るというかなりタフな日程だ。だがこの山行のフィナーレとしては
悪くない。
今山行で初めてヘッデン出発。暗闇の樹林帯は遠くが見渡せず、地形図と
コンパスの頻繁なチェックが必要だ。明るくなり、森林限界を超えると
クラストした快適な尾根だ。風は相変わらず強い。
2ヶ月近く前に通過した道を歩く。(年末の岳沢ソーメン流し山行)
年末と比べてやはり雪が多く、ヤセ尾根は慎重に歩く。
思いのほか速いペースで仙丈ヶ岳を越え、北沢峠へ。
北沢峠の手前で2週間ぶりに2組のパーティーに会う。見知らぬ人とはいえ、
久しぶりに人と出会うとやはり嬉しい。
なんとか昼前に北沢峠へ。さあ、最後の登りだ。
雪は少なく、うっすらトレースの後もあるのでたいしたラッセルはないが、
さすがに疲れているのでペースも上がらない。
樹林帯の急坂を耐えて、ようやく山頂の見える位置までくると
「ああ、あれを越えたら終わってしまうのか・・・」少し寂しくもある。
イカンイカン、まだ終わってないぞ。まさにその通りだった。
強風の中、クラストしているとはいえ駒津峰手前の急坂が続き
見えてはいるがなかなか近づかない。それを越えるといよいよ山頂は目前。
ラインは向かって右に迂回するルートもあるが、やはり最後は岩稜帯の直登が
似合う。疲れた体に最後まで強風が辛いが、甲斐駒が激励しているとも感じる。
17:00、山頂。遠くに甲府の灯りが見える。振り返ると夕闇の中、
北岳・仙丈・間ノ岳、その後ろに塩見がかすむ。既に西には怪しい雲が。
写真を撮って、手短に「アリガトウ」と挨拶し、下山を急いだ。
トレースは当然なく、ワカンでも膝まで埋まったりしながらなんとか
七丈小屋を経て五合目小屋へ。ヘッデン残業であったが、五合目小屋手前の
クサリ場は今日中に越えておきたい。慎重に下る、最後の一瞬で事故っても
結局事故は事故なのだ。幸い、七丈小屋の管理人さんのトレースがしっかり
していて助かる。
五合目小屋跡に到着。長かった一日、そして山行が終わった。
明日は下山。下山の前祝に食べ慣れたカレー&お汁粉。心地よい達成感の中
眠る。外は雪が降り始めた。
23日 12:30出発~16:00竹宇駒ケ岳神社~16:45道の駅はくしゅう
~18:15JR韮崎駅~21:00多摩動物公園駅
朝起きると、外は雨。3日前の悪夢再来。幸いラジオは午後には天候回復を
告げていたので、あわてずのんびり待つ。
昼前には雨も止み、出発準備。テントはビショビショ、でも今日夜は
暖かい飯と布団(でも部屋でも寝袋なワタクシ)が待っている。
雨上がりのグサグサビショビショな雪を降りる。ここら辺は雪が薄く、
尚且つ雪がグサグサでよく滑る。こんなことに春を感じるワタクシは
ヤマヤだなと苦笑。
駒ケ岳神社に到着するとドット疲れが出る。ヤッケはびしょ濡れで道の駅まで
の道のりがやたら長かった。しかし道の駅隣接のスーパーで買ったコロッケは
死ぬほど旨かった!!平地に帰ってきたんだな、ただいま、と実感。
夕飯はハンバーガー死ぬほど食おうと思うも、八王子駅週辺にマックを
発見できず、泣く泣く?スーパーでピザを買う。大量に買う。
さあ、あしたから早速バイトだ・・・・
(貧乏暇無、案の定木曜に体調崩しました笑)
**************************補足情報***************************
これから厳冬期の長期縦走を志す方の参考になれば幸いです。
【装備関係】
・一般幕営装備:割愛
・登攀装備:8mm×20m、カラビナ4枚、シュリンゲ・捨て縄3本
(緊急時の使用を想定し、今回は就寝時の枕に使用のみ。笑)
・普段持っていかなかったモノとして、
針金・ガムテープ(道具の修理用)、文庫本2冊(停滞時の暇潰し)
基本的には技術的に難しい箇所はなく、ピッケル一本で十分。
標高の高い稜線に長時間滞在するので、防寒装備は完璧に。特に今回は
フェイスマスクの鼻の部分がなく、頬~鼻に軽い凍傷を負った。要注意。
最近の温暖化の影響か、2000m以上でも雨の可能性があるので防水にも
注意を払うと尚良い。
【食料関係】
基本は 行動日 朝:ラーメン(+乾燥ワカメ)、
ピーナッツクラッカー(+砂糖、きな粉)
行動食:紅茶(+砂糖)、ナッツ100g
夕:ラーメン(+ハンバーグ90g)
きな粉ドリンク(+砂糖)
※2日に一回、ビタミン・ミネラル錠剤を服用。
休養(停滞)日 朝:ラーメン2食分(+乾燥ワカメ)
昼:ココアピーナッツ160g(+砂糖、きな粉)、紅茶
夕:カレー(+α米、ハンバーグ90g)、お汁粉(+餅1個)
きな粉ドリンク(+砂糖)
燃料はEPIガス12缶(結局2缶ほど余った)
といった感じ。ラーメンには七味唐辛子を真っ赤になるまでかけた。
体が芯から温まるので、就寝前も出発前も重宝する。また、きな粉は
長期山行で不足しがちなタンパク質の補給にかなり有用な気がしたので
オススメ。もって行った量は、代表的なモノで
ラーメン28袋(1袋2食入、五種類)、ナッツ15袋(1袋200~160g)、
きな粉1kg、砂糖2kg 冷凍ハンバーグ1.8kg 紅茶28パック 等・・・。
以上の装備で、最大100Lのザックにつめてだいたい28kgぐらい。
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【総括】
昨年末、アコンカグア遠征を自身の実力不足から断念したときから
ずっと心の片隅に居座っていた疑念。
「アコンカグアから逃げたのでは?」
たしかに経験・実力共に不足していたのは明らかだし、日本で積むべきことを
見つけた以上、断念は至極当然と今も思う。しかし、多少無茶でも挑むことに
意味があったのではないか? 結果の如何に関わらず、ソロの海外遠征は必ず
何か大きな収穫があったのでは? 自分自身の決断を周囲のアドバイスに
委ねてしまったのではないか? 考えても答えの見つかるはずのないこの問い
からずっと離れられなかった。
だけどこうも思う。過去の行動・決断を意味づけするのは現在・未来の自分に
他ならないのではないかと。未来の自分が幸せと感じるなら、その礎となる
過去・現在の自分の行動・決断は、その時どう感じたのであれ意味があった
のではないかと。
アコンカグアの断念自体の意味は今も正直よくわからない。
しかし、「あの時断念したから今の自分がいる」と胸が晴れるよう精進努力する
ことだけはできる。そういった意味で、今回の南アルプス縦走はその第一歩
かもしれない。
今回の山行は技術的には本当に冬山の基礎があれば問題ない。むしろ緊急時の
対処が咄嗟にできるかどうかが重要なことだ。この縦走は登攀性がほとんど
なく、その分ヤマの"原点"が詰まっていると感じた。
重たい荷を担ぎ、ラッセルしながら、風雪に耐え、頂を目指す。
特に若いときに山岳会からヤマを始めたりすると、先輩方も忙しく大概
クライミングや雪稜・アイス等からヤマを始めることが多いと思う。
しかし、是非とも一度長期縦走をやってみて欲しい。重たい荷がどれほど
辛く、自分の体力を奪い、行動を遅らせるか実感できるはずだ。
そういった経験がRight&Fastの重要性をより深く認識させるから。
先輩の話だけよりも遥かに体に沁みこむはずだと思う。
正直、アクシデントに見舞われる度、足腰が軋む度、ラッセルに辟易する度、
悪天に停滞を余儀なくされるたびに、地図上のエスケープルートを見つめて
しまう自分がいた。情けない話だが、長期間独りでいるとえらく弱気となる。
それも普段のヤマでは見つけられない自分の側面だろう。
それでも23日間を駆け抜けられたのは”意地“だと思う。
それは単にピークハントや山行の成功のみを欲する安っぽい意地ではなく、
自分は岳人だという意地、いつかは登れる、そして無事還ってこれるという
自分自身に対する信頼にも似たものがこの縦走に自分を繋ぎとめたと思う。
語弊を恐れず言えば、この山行はそこまで価値のあるものではない。
過去に何人も同等、いやそれ以上の長期で困難な縦走を完登している。
だから「他者」には価値はない。あるのは自分自身に対して・・・だ。
海外遠征では大内サンや山野井サンにお世話になり、通常の山行でも
先輩に頼っている。でも今回は最初から最後まで自分で考え、完登した(?)。
だから珍しく、自分を労いたい、「オツカレサン」と。
最後にこの場をお借りして申し上げます。
先輩方、教えてくださった技術で何とか今山行を無事終えられました。
後輩方、こんな山行かすむ位のドデカイ山行が君らにはできる、期待してます。
山小屋関係者の方々、本当に冬期開放は助かりました。
山行中出会った方々、出会えて・話せて嬉しかったです。
本当に皆々様、どうもありがとうございました。
さて、総括などとホザきながら思いつくままの乱筆、ご容赦ください。
最後は毎度のことながらこの言葉で〆ませう。
さあ、次はどこへいこう?
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